NOVEL

□酒乱人(しゅらんちゅ)
1ページ/9ページ

「ライ〜いる?」
ラウンジのドアが開かれ、中を覗き込んで尋ね人の名を挙げるが誰もいないその場所ではカレンの声は空しく空間の中を漂う。
見渡し、ラウンジ内に誰もいないことを認識するとドアを閉める。
「ここにもいないか・・・」
アジトに着いてから、三十分か四十分は経っているのだろうか。紅蓮弐式の整備を手伝ってくれるはずの捜し人が一向に見つからない事で作り出される溜め息と共に言葉が出てくる。基本的にライはカレンよりもいつも早く来ている。
カレンの方が先に来ることもあるのだが、それでもごく稀だ。突然の体調不良や遅刻も考えられたが、そう決め付けるのは早すぎる。
もしそうであった場合は連絡を回すようにとライはカレンに提案し、二人の間で取り決めていた。
少なくともライは自分が言い出して決めたことを破るようなことはしない。
しかも今回は集合時間も設けたので、易々と破ることはまず無いはずだ。
それは、ライが黒の騎士団に入団する前からお世話係としてライを見てきたカレンの揺るぎの無い答えだ。
だが、今現在彼が見つからないのも揺るぎの無い答えである。
「別の所かしら?」
別の所・・・そうは言っても、このアジトのあらゆる場所は調べた。
人が居そうな所、人が隠れられそうな所、はたまたは逢引のできそうな場所など十ヶ所以上は探し回った。ここまでしていないのであるならば、ゼロか誰かに捕まっているのだろうか。
仕方ない・・・暫し考えた結果、カレンは紅蓮弐式の元へ向かうことにした。もし、ライが自分を見つけられなくても、一緒に整備を手伝うのだから自分が紅蓮の元に居るかもという思考を導かせる為である。
「あら、カレンちゃん?」
格納庫の方へ歩き出したその時、カレンは後方から聞こえてきた声に反応して振り向いた。
「あ、ラクシャータさん」

顔を振り向かせてカレンは紅蓮弐式の生みの親の名を呼んだ。額のチャクラ、褐色の肌、白衣などと特徴的過ぎる要素を
数個所持するラクシャータ・チャウラーは手をヒラヒラと振ってカレンに応えて近づいてくる。
「さっきからあっちこっち動き回って何か探し物でもしてるのぉ?」
「えぇ・・・ちょっと人を。ラクシャータさんはどうかしたんですか?そんなファイルを持って・・・」
カレンはラクシャータの脇に挟まっていた分厚いファイルの方に目を移して訊ね返した。
「私?私も探し物・・・・っていうよりは、捜し人ね」
「誰を捜しているんですか?」
「ライよ、ラ・イ。彼の月下に駆動系や他の部位に新しいパーツを組み込んだから、それの使い心地を訊いてみようと思ってさ」
ということは脇にあるファイルはその新しいパーツに関する書類が入っているのだろう。
「え、ラクシャータさんもライを捜しているんですか?」
カレンはラクシャータの捜し人も自分と同じ人物ということにトーンを抑えた声で驚く。その声にラクシャータは聞き返す。
「も・・・ってカレンちゃんも彼を捜しているの?」
「はい、紅蓮の整備を手伝ってくれるって言っていたんですけど、捜してもどこにも居なくて・・・・」
「どこにも?遅刻とかじゃなくて?」
「いえ、それはないんです。何かあったら、私の方に連絡を回すようにって二人で決めてましたし・・・」
「へぇ〜随分と仲がよろしいこと。熱いわねぇ」
ライの遅刻説を否定するカレンの言葉の途中で割り込んできたラクシャータの言葉は明らかにカレンを茶化すモノであった。
「え!?な、何言ってんですか!わ、私とライは別にそんな・・・」
顔を真っ赤にし、手を大きく振って否定する様はまるで、何かの小動物を連想させる。
カレンのそんな様子を間近で見たラクシャータは最初だけは面白そうに見ていたのだが、数瞬後には興味なさげに声を掛ける。
「それで、どうするの?」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ