Story
□夢物語
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願わくば、夢の中だけでは彼女が幸せであらんことを。
04..夢物語
「コムギ…?」
彼女は床に横になっていた。
倒れているのかと慌てて駆け寄る。
だが、そうではないのだと、幸せそうな寝顔を見て気づく。
時間になっても戻って来ないなど、今までの余であれば瞬殺しているところだ。
だが、それにしてもなんと綺麗な寝顔…。
睫毛が長くて人形のようだ…。
顔の横に無造作に置いてある腕。
女にしてもこれは細すぎる。
ちゃんと飯を食っているんだろうか?
そっと手を伸ばして
彼女の頬へ………。
「…ん…総…帥さま?」
「…すまぬ。起こしたか?」
「あっ、わだすっ…いづの間にが寝ですまって…」
ドクン、ドクン
心臓が煩い。
まさか、起きるなんて思わなかった。
驚いた。
ほんの少し指先で触れただけだったのだが。
余の指は冷たかったか?
お前を目覚めさせてしまうほど。
寝起きの間の抜けたお前も可愛いが
もう少しだけ────。
「あ、の…総帥さま…?」
「…いや、構わぬ。もう少し寝ておれ。」
また起こしに来る。
そういうと彼女はまた眠りに落ちる。
心臓が鳴り止まない。
激しいくらいに。
煩いくらいに。
頬に触れた指先の熱が、身体全体に広がっていくのをただ感じていた。
そうして、また幸せそうな寝顔に視線を落とす。
彼女が、この世界の現実に不安を抱いているのならば。
少しでも、心を痛めることがあるというならば。
どうか、夢の中では
彼女が幸せであるように。
そんな夢物語を。
E N D