*HASHIRA'S*

□夜明け前
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「よぉ手塚」

悪魔のような声。

「遊ぼうぜ」

逃げなければ。もう二度と…

「俺様から逃げられると思ってんのかよ、あぁん?」

身体が、動かない。

逃げなければ。早く。
せめて大声を出せば誰かが気付くかもしれない。

「そうだ。おとなしく言うこと聞いてればいいんだよ」

何故だ。身体が言うことを聞かない。
叫んでいるつもりでも、ひきつった掠れ声が漏れるだけ。

何故だ…!

「教えてやろうか」

俺に触るな…!!

「てめぇは、俺様から逃げることなんかできないんだよ。一生、な」





「…………!!!」

がばっとベッドから起き上がり、自室にいること、当然あいつはいないことを確認してため息をついた。

寝間着は頭から水でもかぶったかと思うぐらい汗でびしょびしょだった。

時計を見る。まだ5時にもなっていない。
早起きというレベルの時間ではなかった。

とりあえずシャワーを浴びようと部屋を出て、悲鳴をあげそうになった。
凌辱を繰り返されたあいつの部屋だ。

すんでのところで悲鳴を飲み込む。
こんな時間に叫び声なんて上げるわけにいかない。

もう一度前を見る。
そこはちゃんと自分の家だった。

どうしたんだ、俺は。
自分はこんなにも…弱かったのか。

どうしてだ。
あんなやつに、身体だけでなく、心までもいいようにされて、悔しくないのか。
忘れろ。思い出すな。

足早に、だが家の者を起こさないようひっそりと、浴室に向かう。
濡れた衣服を脱ぎ捨て、シャワーの栓を捻る。

熱い湯を浴びて、動揺も一緒に流そうと必死で無心になろうとした。

ーーいい加減のぼせそうになってシャワーを止めたとき、あいつの声が聞こえた。

「いくら流したって無駄だぜ?何度でも、汚してやるからな」

…どこか遠いところで、悲鳴が聞こえた。

やけに聞き覚えのある声だった。






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