*HASHIRA'S*

□月明かり
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手塚の携帯が鳴った。

液晶を見た手塚の表情が強張る。

「電話?」

今日発売されたばかりのコミックに没頭していたリョーマが顔を上げた。

「ああ…」

着信を伝える電子音は鳴り続けていたが、手塚は携帯電話に触れようとはしなかった。

「出ないんすか?」

不思議そうにするリョーマに動揺を気取られないように、手塚は意識して無表情を作る。

「後でかけ直す」

「ふうん…」

リョーマは特に気にせずコミックに意識を戻した。

携帯電話はまだ鳴り続けている。

手塚は凍り付いたような表情で、液晶に表示された発信者の名前を見つめていた。




氷帝学園の跡部景吾が同性愛者だと知ったのは、去年の正月のことだった。

それまでは彼のことを同じスポーツを極めようとするライバルとして認めていた。

だから、正月休みで身体が鈍らないよう試合をしようと呼び出されたときも何の疑いも抱かず出掛けて行った。

差し出されたスポーツドリンクを飲み意識を失った手塚は、両手両足を縛り付けられ何の抵抗もできずに跡部に凌辱された。

何枚も写真を撮られ、拷問まがいの扱いを受け、反抗する心は折られた。

その後も、何度も何度も呼び出されて犯された。

その地獄から、リョーマが救ってくれた。

穢れた自分を、好きだと言って大切に抱いてくれた。

幸せだった。

…それなのに。

自分は、また跡部の家に向かっている。

再び、跡部の玩具になるために。




あの日、リョーマが帰ったあとに再度入った着信を、手塚は無視することができなかった。

自由を奪われたまま痛め付けられる恐怖が心の奥に甦り、震える手で電話に出た。

「よお、手塚。久しぶりじゃねぇか」

何も言えないでいると、跡部の笑い声が届いた。

「久しぶりに遊ぼうぜ」

悪魔のような笑いだった。

「…俺はもう…」

震えながらも反論しようとした手塚を、跡部はたった一言で抑えつけた。

「それなら越前に相手になってもらうしかねぇな」

「…やめろ…!」

手塚が悲鳴のような声で叫ぶと、跡部は満足そうに言った。

「明日の夕方5時、俺様の部屋まで来い。いいか、1分でも遅れたら、俺の方から越前のところに出向くからな」






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