*TSUBASA‐K×F‐*

□つきよ
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…暗い。

まぁ、夜だしー、電気消してるから、当たり前、なんだけど。

何があったという訳でもないのに、どうしようもなく気が沈む。

何日か前に辿り着いたこの世界では、もう何日も夜が続いているらしい。

でも今は時間的にも、正真正銘の夜で、さくらちゃんや小狼くんも、モコナも黒さまも、みんな眠っている。

それなのにオレは全然眠れそうにない。
身体は疲れているのに。

あ、だめだ。

何だかよくない予感がして、オレはみんなが休んでいる部屋を抜け出した。

外は満月で、満開の桜が咲き誇っている。

「はぁ……」

横になっていた方が少しでも疲れがとれるのはわかっている。
でも、あの静かな部屋で独り天井を見つめていると、悲鳴をあげてしまいそうだった。

なぜかはわからないけど。

オレは薄暗い月夜の街をあてもなく歩き出した。

「…満月って何だか不気味だなー」

沈黙がつらくて、わざと声に出して呟く。

すると。

「…こんな夜中に独りで徘徊してるおまえもたいがい不気味だがな」

後ろから返答があって心臓が止まりそうなぐらいびっくりした。

「…く、くろさま…っ!?」

思い切り振り返ると仏頂面の黒さまが立っていた。

「…ごめんねー、起こしちゃった?」

へらっと笑って問うと、ぺしっと頭を叩かれた。

「どっちかってーと起こされなかったことの方が腹立つがな」

「…………」

黒さまの、こういう優しいところは苦手だ。

「…嫌な夢でも見たのか」

「…ちがうよー、ただ、夜桜現物がしたくなっただけー」

黒さまはなにも言わずわざとらしいため息をついた。

「…………」

「…寒くないか?」

何と言っていいかわからず俯いていると、黒さまの優しい声がして、何故か鼻の奥がつんと痛んだ。

「…ぅ……」

抑えようとしたのに、すぐに目頭が熱くなって、ぼろぼろ涙が溢れてきた。

なに泣いてるんだろう。
自分でも引いた。

それなのに、黒さまは何も言わずに、オレを抱き寄せてぎゅっと抱き締めてくれた。

オレはもう何が何だかわからないぐらい、子どもみたいに大声をあげて、黒さまの胸でわーわー泣いた。







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