*TSUBASA‐K×F‐*

□くらし
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帰宅して玄関を開けるなり、ぱたぱたと足音が近付いてきて、白いエプロンをつけたファイが飛び付いてきた。

「黒さまお帰りなさい」

「…あぁ」

嫌みの1つも言ってやろうと思うのだが、俺の首にしがみついて無邪気ににこにこ笑うこいつを見ると毒気を抜かれてしまう。

「ちょうどご飯できたとこだよー。すぐ食べる?それともお風呂?…あ、それとも」

「黙れ」

何を言い出すか悟った俺はファイの頭をぱしっと叩いた。

「うわー、黒りんひどーい」

そう言いながらもこいつはひどく楽しそうだ。

未だに俺にしがみついているファイの身体を引き剥がしながら、こいつが笑顔でいられるならこの生活も悪くはないなと思った。

…態度に出すつもりは、さらさらないが、な。




1LDKのこじんまりとした住居は、ファイの選んだインテリアで慎ましく、爽やかに飾られている。

こいつにはよくわからない趣味もときどきあるが、こういうセンスは悪くない。

そして、料理の腕も。

今日も食卓には沢山の料理が所狭しと並んでいる。

向き合って食事をする間、ファイは楽しそうに今日あったことを話す。

「それでねー、モコナがプールに落ちちゃったんだー」

適当に相槌を打っていると、むくれたファイに睨まれた。

「もーぅ、黒たん聞いてないでしょー」

「さぁな」

適当に返すとますます膨れる。

だが、そんな表情でさえも眩しく思えて、俺は何とも言えない気分になる。

…あぁ、俺はこいつに惚れているんだ。





「黒さまー、もう寝ちゃうの?」

夕食のあと、一緒に風呂に入ると言い出したファイを無視して1人で入浴し(洗面所にも浴室にも鍵をかけた)、ベットに横になっていると風呂上がりのファイが擦り寄ってきた。

まだ少し濡れている金色の髪からふんわりと甘い匂いがする。

「髪、乾かせよ。風邪引くぞ」

「えー、でも黒さまその間に寝ちゃうでしょー?」

やだやだ、と甘えかかってくるファイに頬が緩みそうになるのを抑えてわざと仏頂面を作る。

「寝ちゃだめなのか」

「だって、新婚さんなのにー」

「…なんだそれ」

わざと布団を被ると布団越しにぱしぱし叩かれる。

「もー、黒さまー…そんなんじゃ、さくらちゃんの羽、取り戻せないよー?」

そう、こんな新婚生活みたいなことをこいつとやっているのは、あのお姫サマの羽のためだ。

この新しい次元に着くなり、何度見てもぎょっとするあの反応を白まんじゅうが見せ、羽が絶対あると騒ぎだした。

白まんじゅうに連れられて人の集まった広場に着くと、空から沢山のビラが降っていて、その1つを手に取った小僧が声をあげた。

「これは…姫の羽です!」

そのビラを5人で覗き込む。

そこには確かに姫の羽にそっくりな羽の絵が描かれていた。

「願いが叶う不思議な羽、優勝者に進呈、だってー」

「優勝者…?」

不思議そうな姫の疑問には、広場の前方にある台で拡声器を使って 演説らしきことをしているスーツ姿の一団が答えた。

「我が国では未婚率の高さが目下の改善すべき課題となっている」

「全世帯における単独世帯の割合は最早過半数を越え、7割にも迫る勢いで増加している」

「住居問題、介護問題、孤独死など、憂慮すべき問題は山積みだ」

「そこで、政府は結婚を推奨すべく今回大々的なキャンペーンを行う!」

「婚姻を結び、生活を共にし、一番愛し合っていると認定された夫婦に、我が国の宝物庫に代々伝わりし、幸運をもたらす羽を進呈する!」

「…なんだそりゃ」

俺はため息をついたが、小僧は案の定強い目で宣言した。

「姫の羽を、取り戻します」







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