*TSUBASA‐K×F‐*

□ぬくもり
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ファイは宿屋の部屋で鏡に向かっていた。
上半身の衣服をめくり、恐る恐る鏡を覗き込む。

そして、満足気に微笑んだ。

「よし…今日こそ…!」




相変わらずの旅の途中、いまは凄く発展した都会街に宿をとっている。
一人部屋しか空いてなかったため、今回は全員ばらばらの部屋だ。

そのせいもあるのだろうが、黒鋼とくっついていられる時間が最近ほとんどないことが、ファイは密かに不満だった。

前の国でファイが負った傷が治るまでは抱かないと宣言した黒鋼は有言実行だから、どちらにしても抱いてはもらえないだろうけど。

だがついに、胸の刀傷も腹の峰打ちの痕も見えなくなった。

ファイは早速黒鋼の部屋に向かった。

「くーろたーん♪」

呼び掛けながら黒鋼の部屋をノックしたが返事はない。

「寝ちゃってるのかな…」

夕食のときこの街で造られているという地酒が振る舞われ、黒鋼は結構な量を飲み干していた。

明日にしようか、とも思ったが…久しぶりに黒鋼の傍にいられると期待した身体は、簡単には諦めてくれそうにない。

隣で眠るだけでもいい、黒鋼のぬくもりを感じたかった。

少し思案したあと、ファイはおずおずとドアノブに手を掛けた。
鍵はかかっていないようだ。

ファイは思いきってドアを開けた。

「…お邪魔しまーす」

部屋の中に入ると、黒鋼のにおいがする気がして、ファイは何だか嬉しくなった。

黒鋼の姿は見えないが、部屋についているバスルームから水音が聞こえるから、シャワーを浴びているのだろう。

ファイは少しでも早く黒鋼に抱きつきたくて、逸る心を抑えることが出来なかった。
少し躊躇ったが、何と衣服を脱ぎ捨てて黒鋼のいる浴室のドアを開けた。

湯船につかっていた黒鋼は、急に浴室のドアが開き何事かとそちらを見た。
そして凍り付いた。

ほんのりと頬を染めたファイが、一糸纏わぬ姿で立っている。
一瞬自分の妄想かと疑ってしまった。

「…どうした?」

驚きのあまりあまりに素っ気ない言葉をかけてしまう。

恐らくその場の勢いでこんな大胆なことをしてしまったのだろうが、黒鋼の言葉にファイは我に返ったようだった。

耳まで真っ赤になって、裸体を隠すようにしゃがみこむ。
俯いた表情は、泣きそうに歪んでいた。

黒鋼は浴槽からあがってファイの身体を抱き締めた。
美しい肢体はすっかり冷えてしまっている。

「…邪魔してごめんねー」

ファイが黒鋼を見上げてへにゃんと笑う。
黒鋼の大嫌いな、仮面のような笑顔だ。

黒鋼は何も言わずに、ファイの身体を抱き上げると湯船に戻った。

「わっ…!」

ファイが驚いて黒鋼にしがみつく。
あまり広くない浴槽で、二人はぴったりと密着した。

「…治ったんだな」

黒鋼がぼそりと呟く。

「あ…、うん、そうなんだー。心配かけてごめんねー」

それには答えず、黒鋼はファイの顔を覗き込んだ。

「それで、裸で風呂場に浸入してきたってことは、食べて下さいって解釈でいいんだな?」

ファイが再び真っ赤になる。

「…そんなんじゃ…ぁあんっ!」

否定しようとした言葉は中途半端に跳ねた。

首筋を吸われただけなのに。
たったそれだけでびっくりするぐらい感じてしまって羞恥に震える。

「…あぁっ…んぅ…」

首筋を強く吸われたかと思うと唇を奪われ、舌をからめとられて吸われ、身体から力が抜けてしまう。

湯船に沈みそうになったファイを、黒鋼が引き上げて支えた。
腰に手を回され、股間の周りをゆっくりと撫でられて、ファイはぴくぴく震える。

「敏感だな」

低く笑われて、羞恥にかっと顔が熱くなった。

「…ぁ…っぁ…ゃぁ…」

何もされてないのに緩く勃ち上がってしまった自身をからかうように、黒鋼の手はファイの股間をじっくりと撫で回す。
でもその手は決して直接ファイ自身には触れはしない。

もうすっかり欲情している様子のファイが焦れったそうに身を震わせるのを、黒鋼は愉しげに観察した。

嫌いなわけでも苦しめたいわけでもないのに、ファイに触れていると沸き上がってくる嗜虐心を抑えることができない。

黒鋼はふっと笑うと、ファイの身体を抱き上げて浴槽から上がった。






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