*F×other*
□お仕置き
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「好きです!付き合って下さい!」
「へ…?」
今日、氷帝学園テニス部はスポーツメーカー主催のオープン試合に出ていた。
公式戦ではないので…決して手を抜く訳ではないが…気楽にプレイができる。
自分が出る試合が終わりクールダウンをしていた長太郎は、セーラー服姿の可愛らしい女の子に呼び止められた。
そして、いきなりの告白。
長太郎とて天下の氷帝レギュラーの1人。モテないわけはないのに、未だにこういう状況に慣れない。
しどろもどろになりながら、どうにか恋人がいることを伝える。
「…私じゃだめですか?」
「…ごめん」
すると、その女の子の大きな瞳からみるみる透明な雫が溢れ出した。
「ちょ…あの…」
焦る長太郎に、その子は信じられないことを告げた。
「わかりました…キスしてくれたら、諦めます」
「…えぇ…?!」
愕然とする長太郎に女の子の華奢な腕が伸びてくる。
…柔らかな唇が離れて、女の子が走り去るまで、長太郎は金縛りに遭ったように硬直していた。
「長太郎、どこ行ってたんだよ」
更衣室に戻るととっくに着替え終えた宍戸さんが待っていた。
「もうみんな帰ったぞ」
「すみません、ちょっと…」
「俺ももう帰るから、鍵、頼んだぜ」
ぽんと放られた更衣室の鍵を受け取り、宍戸さんを見送る。
1人になってほうっと息をついたとき…
「長太郎」
「うわあぁぁっ!」
突然名前を呼ばれて心臓が止まりそうになった。
「ふふふ、びっくりしすぎ。疚しいことでもあるみたいだよ?」
「…周助先輩!」
私服姿の周助先輩がドアにもたれるようにして立っていた。
今日の試合に青学は出ていなかったから会えるなんて思ってなくて、大好きな人の姿にテンションが急上昇する。
駆け寄って抱きつこうとした俺を、周助先輩はひらっと避ける。
無人とはいえ、誰かが入ってくるかもしれない場所で軽率だったかと反省した。
「周助先輩、来てたんですね。…もう帰るんですか?」
もしかしたらお茶ぐらいできるかもと期待する俺を、周助先輩は無表情に見つめた。
「…周助先輩…?」
いつも優しい笑顔の周助先輩が、酷く冷たい目をしている。
「ねぇ、長太郎」
周助先輩が俺のジャージに手をかけた。
疑問に思う間もなく、思い切り床に引き倒された。
「…うっ…!」
咄嗟に手はついたが、棚に向こう脛を思い切りぶつけた。
呻く俺を気にする素振りもなく、周助先輩は当然のように俺の身ぐるみを剥がした。
「…周助、先輩…?」
下着までも剥がされ、冷たい床に触れた皮膚に鳥肌がたつ。
怖いと感じる余裕もなかった。
何が起きているのか、全くわからない。
全裸で震える俺を、周助先輩が抱きかかえた。
ほっとしたのも束の間で、周助先輩はいつの間にか手にしていたグリップテープをふんだんに使い、俺の両腕を後ろ手に縛り付けた。
そのまま仰向けに転がされ、固い床と自分の身体に挟まれた両腕がぎしりと痛んだ。
ここにきて、ようやく恐怖を感じた。
これから自分の身に起こることに対する恐怖ではない。
大好きで大好きでたまらない人に、もしかしたらもう嫌われてしまったのかもしれない。
それが恐ろしくて恐ろしくて、俺はがたがたとみっともなく震えた。
「…長太郎、僕が怖いの?」
周助先輩は歌うように言った。
「僕は、他の子とキスしといて何もなかったみたいに抱きついてくる君の方が怖いけどね」
「………………!」
驚く俺に、周助先輩はにっこりと笑いかけた。
「淫乱な長太郎にぴったりなものがあるんだ」
周助先輩は毒々しいピンク色の香水ビンのようなものを取り出した。
「こんなもの、君に使うつもりなんてなかったのに」
シュッシュッ、と、ビンの中身を俺の身体に振りまきながら独白のように呟いた周助先輩が酷く哀しげで、いたたまれなくなる。
「周助先輩…ごめんなさい…俺…」
俺の言葉を、笑顔の周助先輩が遮った。
「謝らなくていいよ」
そして、また、氷のような視線で射抜かれた。
「…許すつもり、ないから」
「………………」
俺はどうしていいかわからず俯く。
俺にとってあれは唇がぶつかったというような出来事で、他の子とキスをしたという認識はなかった。
ただただ驚いただけで、特別な感慨などは一切なかったのだ。
それでも、周助先輩の言うことはもっともだと思う。
もし、周助先輩が他の人とキスをしてるのを見たら。
想像するだけでも胸が締め付けられた。
「周助先輩…」
もう一度謝罪しようとした俺の背筋に、突然雷に打たれたような衝撃が走り抜けた。
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