novel

□重力-グラビティ-
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否定していた。




『ちょっとイッキ!!』




そんな言葉が口癖になる程。





あの日々のほうが本当なんだと




心のどっかでまだ…否定していた。






『見てたかヨ、リンゴ』






信じたくは、なかったんだ。






『イッキなら、大丈夫』






あなたを裏切って、

つらい思いをさせて―






『俺の“走り”を、リンゴに見て欲しい。』





信じていたかった。







あの日々の方が、本当なんだと。






『行ってらっしゃい』





『おス。』







ごめんね。




ごめんなさい。






あの日々の方が本当なのだと、
思っていたのは私なの。







「俺・・・

空のアンちゃんのこと・・・

―本当の兄ちゃんのように・・・

思ってたんだ―・・・」







彼はもう、信じる人から裏切られ続けて・・・








あぁ、許されるなら





駆け寄りたい





許されない





抱きしめたい





許されない






彼を支える存在は、
今、どこにもいないの―・・・












「―・・・!」






瞬間、時間が止まった気がした。







「どこかに、この・・・

悲しみを止めるネジが

ついてたらいいのに・・・」






彼女はそう言って、微笑んだ。








そんなもの




存在しないわ。





あるならばとっくに私が、誰より先に見つけてる。




真っ先にイッキの悲しみを止めてあげる。










イッキ。





イッキ。











「・・・好き・・・」









私の言葉は、



重力に飲み込まれ



消えて、誰にも聞かれなかった。


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