毎日の話
□米兵さんと僕
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「太るよ骸、朝からそんなの食べて。」
ご心配には及びません。
僕はどうやら胃下垂らしくいくら食べても太らないのです。有り難いことに。
すっかり目が覚めた雲雀君は遅い朝食求めて台所に行きました。
僕と言えば相変わらずベッドの上でピザを寄りによって全裸で食べています。
昨日は相当無理を強いられたので雲雀君は見逃してくれているようです。
ピザを食べながら、つい先ほどまで見ていた昔の夢を反芻します。
なんて豊かな世界だろう。
必死にがむしゃらに働く生活でも無く、電話をすれば安全で美味しい食料が運ばれてくる。
少し前、僕は小さな小さな男の子でした。
優しい父母、兄姉、二組の祖父母。
賑やかな家族に囲まれる幸せな日々でしたが毎日お腹が空いていました。
皆がいつも空腹で、父が出兵した頃からもっとお腹の空く毎日で…
とうとう敗戦して、僕達はみんな捕虜いう名目で保護されました。
捕虜にされた筈なのに、前よりは空腹はましになりました。
パンの配給を貰えるようになって、僕を含む子供達に米兵さんはチョコレートを度々くれました。
あの甘いチョコレートの味は今でも忘れられません。
「クフフ…」
あの時、雲雀君は今とは違って青い目に黒いくりくりの髪をした逞しい男性でした。
ほどなくして平穏になりつつある時代の中で、僕は栄養失調でも地雷でもなく、ただの不注意で死にました。
兄弟達と海遊びをして、調子に乗って深い所で足がつって溺死です。
軍服の雲雀君が駆けつけてくれたけど、その頃には僕の肺は海水で一杯だったのです。
思い返すと戦時中のそれが一番幸せな生でした。
沢山の家族に愛され最後は雲雀君に死体を抱き上げてもらえたのです。(もっともただの米兵と日本人の子供と言うだけの関係でしたが)
「骸ー、昨日買っておいたチョコ」
いつの間にか寝室に戻っていた雲雀君がいつも食後のチョコを欠かさない僕の為にガーナチョコレートを持って来てくれました。
「クフ♪ 今日はサービスがいいですね」
差し出された板チョコを受け取り、昔かれからこうして受け取った日々を思い出す。
「ギブミーチョコレート!
サンキューミスター!」
「何馬鹿言ってるの。ベッド汚さないでよね。」
また君は眉を寄せて怪訝な顔。
きっと信じては貰えないでしょうからこれは秘密です。
昔僕は小さな子供で
君は青い目の米兵さんで
君がくれるチョコレートが何よりの楽しみでした。
色っぽい関係なんて欠片もなかったけど、僕の死に際にだけ見た事無い程必死の形相になってくれました。
甘いチョコレートは君の記憶と一緒にいつも手元に有るのです。