第0章
□道のり
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「あの、そっちの牛さんの名前も教えていただけるとー…」
ふと隣を歩く牛のような風貌の男の人に尋ねると、
途端にサレは私を地面にほっぽり出して笑い転げ、牛さんは狂ったように怒り出した。
「牛!?牛さんだと!?俺にはトーマというちゃんとした名前がある!!まったく!!けしからん!これだからヒューマは好かんのだ!!」
地面に座り込んでいる私に向かって、牛さんもといトーマは顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「ご…ごめん…ところでトーマ、ヒューマって?」
怒鳴られながらも、聞きなれない単語はしっかりと聞いておく。
「お前のような奴のことだ!」
トーマは鼻息をフンッと吹き出すと、さっさと歩きだしてしまった。
「私が、ヒューマ?」
怒り狂ったトーマからはまともな返答がもらえずサレに問い直す。
サレは笑いすぎて滲んだ涙を薄紫色のハンカチでエレガントに拭きとると、
ちょっと考えるように視線を逸らした。
「…そんな常識、知らない人に会ったことがないからどう説明したらいいのかわからないけど…。」
わざとらしく申し訳なさそうな声色で、こちらをチラチラ見ながら呟く。
「はぁ…すいませんね。記憶喪失なもんで。」
片方の眉を吊り上げて、こちらも負けじと言い返す。
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