Vocaloid SSS
□じみりん2
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足の痛みを忘れるくらいの衝撃だった。
声を聞いたこともないし、顔もちゃんと見たことも無い、毎日教室の隅に居るというのにまるで都市伝説のような存在である鏡音リンが、目の前に佇んでいる。
長い髪に隠れた顔が、下から見上げると更に怖い。
なにやらモジモジと手を動かしながら、小さく体をくねらせている。
用事があるにしては話し出さないし、なにも無いにしては立ち去る気配も無い。
よく聞くと、なにかボソボソ言っているようだ。
しかし、声が小さすぎて全く聞き取ることが出来ない。
モジモジと体をくねらせながらブツブツとなにかを呟く鏡音リンはかなり不気味で、このまま黒魔術で殺されるかと思ったくらいだ。
そもそも、どうして同じクラスの鏡音リンがここに居るのかもわからない。
もともと影が薄いから、今日の体育の授業に居なかったことすら気が付かなかったけれど、制服のまま廊下に居るなんて妙だ。
「鏡音さんは、なんでここにいるの?」
なるべく優しく尋ねたつもりだったが、鏡音リンは過剰なほど身体を跳ねさせて動揺した。
「あ、あああの、具合が良くなくて……た、体育を保健室で休んでて、で、ででも回復したから体育館で見学しようかと思って向かう途中に、えっと…か、鏡音君が居たから、えっと…」
小さな声だったし、とにかく吃っていたので聞き取り辛いことこの上なかったが、なんとか言いたいことはわかった。
初めて声を聞いたけれど、意外と高くて可愛らしい。
「ど…して…こんなところに座ってるの…?」
「…ちょっとサボろうかと思ってさ。鏡音さんは体育館に行きなよ。俺も少ししたら戻るからさ…じゃああとでね。」
少し考えたあと、なんとなく嘘をついてしまった。
怪我したなんて素直に言って、無駄に動揺されたりしたら面倒だったから。
悪戯っぽい笑みを浮かべて鏡音リンに手を振り、強制的に会話を終了させる。
鏡音リンは少しおどおどと落ち着かない様子で俺を見ていたが、やがてペコリと頭を下げて体育館へと歩いて行った。
「なんだったんだ…?」
鏡音リンが去った後、しんと静まりかえった廊下には自分の呟きだけが響く。
不思議な子だな、というのが、鏡音リンと会話してみての感想だった。
ていうか意味わかんねー!
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