Vocaloid SSS

□ワールドイズマイン
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待ち合わせの時間まで、あと5分。

「ごめんミク、待った?」

「…遅いっ!」

青い髪の毛を靡かせて走って来るあいつを見て、私は苛々が声に滲み出るのを隠そうともせずに怒鳴った。

だってそうでしょ?私を待たせるなんて論外だわ!

女の子は準備に時間がかかるものなのよ。

それなのに貴方のほうが遅いってどういうこと?


もっとも、楽しみすぎて私が待ち合わせ時間より30分早く着いてしまったのだけれど…そんなこと絶対言ってやらない。

私は心の中で尚も悪態をつき続ける。


しかし、カイトがヘニャリと笑うのを見て、思わず溜息を吐く。

惚れた弱みというやつか、私はこの情けない笑顔にはどうも勝てない。


「もういいわ。早く行きましょう。私を待たせたぶん、甘いものでもおごってもらうから。」

私はカイトの前で不自然じゃない程度にくるりと回る。

いつもツインテールでまとめている緑色の髪の毛は、今日はリンちゃんに手伝ってもらいながらゆるく巻いて、ネルちゃんみたいに横結びにした。
服も一晩中吟味して、薄桃色のキャミソールに、白いカーディガン。
ふわりとしたシルエットのミニスカートにニーソックスを履いて、バッグはリボンのついたショルダーだ。
足元のパンプスはキャミソールと同じ薄桃色で、ビーズの装飾が施されていて可愛らしい。

カイトのために私がここまで頑張ったなんて、自分でも認めたくないけれど

いつもと違うでしょ?

頭を撫でて、髪型を褒めてよ。

靴までちゃんと私を見て!


それなのにカイトはなんの感想も述べずに「どこに行きたい?」なんて、期待外れの一言。

すっかり不機嫌になった私は、「甘いものが食べたいわ」と投げやりに言った。

そしたら「わかったよ、わがままなお姫様」なんて言って、私の大好きな笑顔を見せる。


「別にわがままなんて言ってないでしょう!?」

ムキになってカイトを怒鳴りつけても、やっぱり「そうだね。ごめんごめん。」なんて困ったように笑ってる。


違うの。そうじゃないの。

ただ、可愛いって言ってほしかっただけなの。

手を繋ぎたくて、ショルダーバッグを選んだのに、私の右手はヒラヒラと空を舞うばかり。
捕まえてないと、どこかに行っちゃうんだからね。こんなに可愛い女の子、めったにいないんだから。

…なんで私も、こんなヘタレな男が良いのかしら。

なんて考えながら、フラフラと歩いていたら


ふいに、後ろから抱きしめられる。


突然すぎて、びっくりして声が出ない。

急にそんなの、ずるい、どうして。

いろんな抗議の言葉が頭を巡り、真っ白になる。
心臓が私の意志とは関係なくバクバク鳴り響き、顔が熱い。



「…轢かれる。危ないよ。」



耳元で囁かれた。
いつもより低くて、小さな声で。

と同時に、離れていく背中の体温。

轢かれると言っても、徐行運転の車が目の前を通り過ぎただけなのに。


やっとの思いでカイトのほうを見ると、私と同じく顔を真っ赤にして、そっぽを向いていた。
照れて耳まで赤く染めるカイトを見て、こっちまで余計に恥ずかしくなってくる。

ドキドキと収まる気配の無い心臓の音。

こんなの不意打ちだわ。



『…轢かれる。危ないよ。』

って


…こっちのが危ないわよ!



(貴方じゃないと、駄目みたい)




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世界で一番お姫様な意地っ張りミクを書きたくて。
予想以上に難しかった。



 

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