Vocaloid SSS
□カムパネルラ
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「それだけ遠く、それだけ遠く、君が行ってしまっただけさ」
緑色の髪の毛を揺らして、女の子が歌っていた。
「ぐみちゃん」
女の子の名前を呼ぶと、歌声が止む。
ぐみちゃんはこっちを振り向いて、ちょっとびっくりしたような顔をしたあと、柔らかく笑った。
「リンちゃん。どうしたの?」
ぐみちゃんが、ソファの上からちょっとずれて、リンが座れるスペースを空けてくれた。
小さい声でお礼を言って、ぐみちゃんの真似をしてソファーの上で膝を抱えて座る。
「ぐみちゃん、今のすてきな曲だね」
「うん。大切なひとにね、会いに行く曲なんだよ」
「こいのうた?」
リンがきくと、グミちゃんはちょっと考えるみたいに首を傾げる。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、大切なひとなの。」
そういって笑うぐみちゃんは、なんだか寂しそうに見えた。
「とおくに住んでる人なの?」
「…もう、届かないところに行っちゃった人のうた、なんだって」
ぐみちゃんの声色から、なんとなくわかった。
この曲は、もう会えない人に、会いに行く曲なんだ。
リンが泣きそうな顔をしていることに気がつくと、ぐみちゃんも眉を寄せて、泣きそうな顔をした。
そして、また歌い始めた。
「はじめからね、こんなものじゃ、届くはずないこと知ってたんだ――」
こんなに悲しい曲を歌うのに、ぐみちゃんはどれだけ練習して、どれだけ悩んだんだろう。
すてきな曲なのに、どこか悲しくて、悲しいくらい、綺麗な歌だった。
リンは、大切な人を失ったことはないけれど
きっとそれはとても―――
「届くはずないこと知ってたのに――」
「…あのね、ぐみちゃん」
「どうしたの?リンちゃん」
リンが小さな声でぐみちゃんを呼んで、ぐみちゃんのスカートの裾を摘まむと、ぐみちゃんは不思議そうな顔でこちらを見た。
「悲しい歌だけどね、会えるはずがなくってもね、」
届いたよ。気持ちは、きっと。
だって、届けようとしたんだもん。
紙飛行機で、気球で、宇宙船で。
届けようとしたんだから。
ありったけの想いは、きっと届いたんだ。
ら、ららら…ららら…
リンも、擦れる声でぐみちゃんと歌った。
悲しいうただけど、きっと悲しいうたじゃないんだ。
届きますように、届きますように。
大切な君へ。
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ささくれPのカムパネルラが好きすぎて書いてしまった。
幼い感じの文章にしたくてチョイスがついリンに。