小説

□好きだから
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 日野香穂子が 静かに弾きおえたとき
間近からファータたちの拍手が起こった。

そして、少し離れた所からも

「悲しい曲だなぁ、胸に染みたぜ」

「難度の高い楽曲を よく弾きこなしている」

 日の暮れかけた森の広場に現れた二人は、同じ背格好なのに

一方はひょうひょうとしてだらしなく

一方は仕立ての良い黒スーツを着こなして颯爽としている。

「ありがとうございます 金澤先生、吉羅さん」

それでも 香穂は 金澤が好きだ

去年の春からずっと

放課後の屋上で告白してから 付かず離れず、でも少しづつ歩み寄って…

イブの夜 ツリーの下で そっと抱き寄せてくれた。

(やっと 想いが届いて しあわせ)

「素晴らしいのだ
日野香穂子!」

突然 目の前に現れたリリが叫んだ。

「就任式のときも 最高の演奏をして 我々ファータの心も幸せにてほしいのだ!」

心の中を読まれたような気がして

「もちろんよ リリ
私 頑張るからね」

力のはいった返事をしてしまった。

「日野香穂子〜〜
さすがファータの友なのだ

我輩から 最高の祝福を授けるのだ〜」

リリは、輝きを増して香穂の周りをクルクル回る。
顔の前で止まり、小さな両手を広げて頬を挟むと、くちづけした。

『ちゅっ』

「!!!!」

バッシィィっ

「痛いのだっ 何をするのだ日野香穂子
叩き落とすなんてヒドイのだ」

「それは こっちのセリフでしょ
セクハラファータ!
信じられない」

香穂は弓を振り回してリリをおいまわした。

(先生の前でキ、キ、キスするなんてっ
先生は見えてないか…でもダメ 吉羅さんに見られてる

私が先生のこと好きだって知ってるのにっ!
絶対イタズラだわ
ゆるさないから)
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