SS置き場(オリジ)
□竜は勇者の夢を見る
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俺は、手を合わせた。
閑散とした村の墓地の、その1つ。
目的は済み、俺は背を向け、歩き出した。
その墓にはよく見知った彼女が彼女が眠る。
私は、手を合わせた。
鬱蒼と茂った森の中にポツンと2つ並んだ、その墓に。
今回私がこの森に入った目的の1つ、それがこれだった。
その墓の主たちのことを、私はよく知らない。
「しまった……迷ったみたいだ。この辺りだと聞いたんだけど……」
俺は呟くと、髪に手を突っ込み、掻き回した。
バンダナで纏めた灰色の髪がボサボサになり、慌てて指を引き抜く。
オレは辺りを見回した。
数年前まで魔物が跋扈していたこの森の、しかもこんな奥地に人がいるわけはないと思っていたのだが……
……いた。
池に囲まれた小島に人が立っていた。
これでもかと言うほど重ね着をしているが、それでも分かる線の細さが女性だと言うことを告げていた。
重ね着といっても、薄い布を何枚も重ねているようで、着膨れしているわけではない。
黒くて長い、艶のある髪が後ろで三つ編みされていて、ゆったりと風になびく。
「すいません」
声をかけると、女性はゆっくりと振り返った。
はっきり言ってかなりの美人だ。
少なくとも、俺が育った村にここまでの美人はいなかった。
女性が小さく首を傾げる。
その仕草に正直クラクラしながら、俺は言葉を紡いだ。
「道に迷ってしまって……バルス洞窟がどこか知りませんか?」
「……もう竜はいないわよ?」
少しの沈黙の後、彼女は言った。
そう、ドラゴンの住処として有名だったバルス洞窟に、竜はいない。
それは、知っている。
それでも見てみたかった。
勇者に憧れる者として。
冒険者として。
ラグナ。
ここは魔法と剣と不思議な出来事で溢れる世界。
その世界を見ながら彷徨う者たちがいた。
それが"冒険者"。
そしてここ数年、その冒険者たちの心を捉えて離さない人物がいる。
功績やその能力から"勇者"と詠われる人物である。
魔王を倒したとされる、その勇者は謎に包まれている。
容姿、年齢、種族、全て。
勇者を詠う、どんな吟遊詩人もそれらについては語らない。
これは謎の勇者に憧れる、新米冒険者の物語。