忍びて候


□不治の病
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不治の病



戦場では気を抜くなと言い聞かせていたのに、―――油断した。
俺が焦ってかわした弓は鈍い音を立てて伊作の肩に突き刺さっていた。

何が起こったのか一瞬分からず声を押し殺すのに手いっぱいで、伊作も声を殺しては地面に静かに膝をついただけだった。

刺さった弓に手をかけた伊作に「抜くのか?」と問いた。

弓を抜けば刺し傷が露呈して膿む原因になりやすい。
学園に帰れば治療してもらえるが…今は忍務中だ。何日かは帰れない。…という条件にはなっているが。どうすればいいのかと伊作に考えを委ねた。


「これには多分毒が塗ってある。抜かないと毒の回りが早くなるから…僕の代わりに抜いてくれないか。手が痺れるんだ。」
今は悲しむ場合じゃない。

肩に刺さった弓に手をかけると、伊作はじっとこちらを見ていた。目は合わせなかったがなんとなく視線を感じた。

「伊作、大丈夫か」

弓をぬいて伊作に渡すと、鼻にそれを近づけた。何をしているのかは分からなかったが、伊作には何かわかったらしく一瞬表情を曇らせた。
俺は伊作の荷物から包帯を取り出したが伊作はその手を止めた。
「留さん、一つお願いがあるんだけど」
「なんだ、突然」
「僕の腕を落としてくれないか?」
その発言に一瞬顔が硬直した。

「…!?おまえ、なに言って…」
「僕を殺したいの?」
動揺した俺の心情を制するようにピシャリといった伊作のセリフに心を惑わされた。
「そんな訳あるか」
「じゃあ、おとしてくれ」
刀を差し出す伊作の眼は穏やかで、こちらが泣きそうだった。
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