おりじなる


□海の子 第1章(2)
1ページ/3ページ

「おまたせ、夕飯でき・・・ありゃ。寝ちまったか。仕方ないなあ」


 夕飯を持って部屋に入ると、男は寝入っていた。


 その呼吸は穏やかで、先ほどまで死にかけていたようには見えない。


 竜也はほっと一息つくと、枕元に座り、夕飯をのせた盆を脇に置いた。そして、その寝顔を覗き込むようにして見る。


 とても同じ男とは思えないほど、綺麗な顔立ちをしている。かっこいいとも可愛いとも違う。本当に綺麗な人。


 どうして、あんな所で倒れていたのか。ふと思ったがすぐに頭を振って、その考えを追いやる。今考えても仕方のないことだ。落ち着いたら聞こうと、心に決めた。



 とりとめもなく思考を巡らしていたが、はたと気がつく。


 この家には布団が一つしかない。それは今、男が使っている。つまり、自分の寝る場所が無い。


 6月とはいえ、さすがに風邪をひいてしまう。だが自分に男と同衾する趣味はない。


 散々迷った末、男の布団の端っこのほうにお邪魔させてもらうことにした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ