−夢に呑まれる。−黄金争奪
□You had it. −君が持っていた。 『凍える夜の過ごし方。』
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戻ったものの特段何をするわけでもなく、女は囲炉裏の傍に座った俺の後ろで静かに座っていた。
薪が熱されパチンと音を立てる。
その音が妙に響くくらい静かな夜だった。
「聞きたいことが。」
予てからの疑問を投げかけた。
遠くで獣の鳴く声が耳に届く。
「何故、俺を助けた。
薬代も馬鹿にならないのに。
こそこそ日銭を稼ぐ位だ。
他人の心配より自分の心配をする方が先だろう。
第七師団の…いや、中尉の息のかかった者か?
それとも陥れようとする輩と通じている者か?」
「どれも違います。ただの未亡人です。」
そう答えると俺の背中に寄りかかってきた。
「貴方を助けたのは似ていたから。
この背中が、背中を丸めてしゃがみ込む姿が…あの人に、主人に似ていたから。
主人の最期の姿に…でも…全然似ていませんでした。」
背中に女の額と鼻先が当たっているのがわかる。
「全然違った…。
あの人より大きくて、広くて、逞しい背中。
ついもたれ掛かって…弱音を吐きたくなる。」
夜の静寂と女の鼻を啜る音。
帰ってきてくれたと思ったんです。
溜息の様に消えて無くなりそうな声だった。