−夢に呑まれる。−黄金争奪

□You had it. −君が持っていた。 『幼き日の背中。』
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女は夕飯の後いつもそうするように風呂を沸かしに行ったので、その隙に立ち去ろうとした。

綺麗に洗濯され畳まれていた自分の衣服に着替えた。

そして出て行こうとしたその時、女と鉢合わせた。

何も言わなかったが悲しそうな顔でこちらを見上げていた。


「世話になった。」


一言告げ、女の横をすり抜けようとした瞬間。

外套を掴まれた。


「…何だ?」


「今日、銃を使っていたのでもしかしてと思っていましたが…。
でももう一晩で良いので…一緒にいてくれませんか?」


お願いします。


“お願いします。”


“お願いします。どうか僕を見て下さい。”


“お願いします。父上、母上に会いに来てください。”


“お願いします。父上、母上、僕の事愛して下さい。”


“お願いします。どうか。どうか。”


“愛して下さい。”


「…お願いします。」


あの幼き頃の自分の声が頭の中で響いてぶつかり合い頭痛がする。

小さな背中を丸めて俯くその姿。


「…お願いします。」


縋るような声に負けて家の中に戻った。





You had it.
−君が持っていた。

『幼き日の背中。』



Fin.


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