−夢に呑まれる。−黄金争奪

□You had it. −君が持っていた。 『温かさと、暖かさ。』
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朝起きると彼はもういなかった。

そして囲炉裏の傍に置かれた小皿の中にはお金が入っていた。

私にとってはかなりの額。

そして懐中時計。

その秒針を見つめ思った。

夜が明けなければ良かったのにと。

彼とこのままこの暗い森の中に閉じ込められてしまえたら。

彼が作り出す空間は妙に落ち着いて安らげるものだった。

−こんな気持ちは久しぶりだった…。

まだ二人の匂い交じる部屋を出て玄関の戸を開ける。

ここ数日間は寒さが続いていたが、今日は少しだけ日差しが暖かかった。

しかしそれに反して家の中からは暖かさが消え寒々しかった。

−振り向かなければ良かった。

以前と同じ日常に戻っただけなのに自分以外誰もいないこの家がより一層暗く、寒く感じた。

−寒い。

ふと。

台所に残っている洗い物に目をやる。

二人分の茶碗。

二人分の箸。

二人分の湯飲み。

この家で一番大きな鍋。

そして私の背中を見る視線。

−また一人ぼっちになっちゃいました…。

この家の前の住人が自ら作ったであろう不格好な小さな棚に置いてある茶碗と湯飲みに話しかける。

あの人の物は何も貰えなかった。

布きれ一枚さえも。

そんな私が出来る唯一の供養。

帰らぬ人に贈る毎日の食事。

−何でしょうね…?この気持ちは。

人肌恋しかった?

違う。

あの人の代わりにしようとした?

違う。

一目見て恋に落ちた?

違う。

じゃぁ何?

−そうだ。きっとこれ、ね?

もう一度、誰かと生きたかったんだ。

お日様の様な暖かい人と。

こんな暗い森の中に隠れ住むのではなく。

陽に包まれながら“暖かいね。”と笑いあえる様な人生を。

生きたかったんだ。

−暖かい。

彼の視線が。

心とける程に。




You had it.
−君が持っていた。

『温かさと、暖かさ。』


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