−夢に呑まれる。−黄金争奪
□You had it. −君が持っていた。 『凍える夜の過ごし方。』
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「あの…嬉しいのですが…。
少し恥ずかしいです。」
涙乾かぬ顔を赤らめ遠慮がちに俺の胸を小さな両の手で押す。
女の手は凍えるとのたまったくせにとても温かい。
初めて触れた時もそうだった。
この女は温かいのだった。
−この女に抱きしめられたらどうなるのだろう?
後悔するのだろうか。
母の、弟の、父の温もりを奪った事を。
愛という温もりを知らず、死者の温度しか知らぬ俺は女をもう一度抱きしめてみた。
両の腕で小さな体を包み込む。
女はもぞもぞと身じろぎし小さな抵抗を続けていたが、次第に抵抗を止め体を預けてきた。
そしてその温かい手を俺の背中に回した。
−温かい。
凍えそうなのは俺も同じだった。
いつもいつも銃を握るその指先は氷の様に冷え切っていて。
「尾形さん、とても温かいですね。」
俺の胸に女が目を閉じ二度三度と頬を擦り付ける。
「…冷え症なんだが。」
お返しに女の頭に二度三度と頬を擦り付ける。
先程から腹の底で渦巻く感情。
相変わらず静寂が支配する夜。
女の呼気。
闇夜に響いた一発の銃声。
それが合図になった。
−こうやって誰かと手と手を取り合い、見つめ合い、愛し愛されたら。
どんなに幸福な人生だったのだろうか。
−知ったところで何になる?
それでも。
知りたかったんだ。
You had it.
−君が持っていた。
『凍える夜の過ごし方。』