Keep a secret
□だれか助けて
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「と、時谷くんどうしちゃったの? どいて……?」
「はぁっ、はぁ……っ」
横たわる私の姿を見下ろす時谷くんは動こうとしない。荒い息を吐き出す度に私に向かって真っ直ぐに落ちた髪が揺れている。
硬い床に押さえ付けられた背中がズキズキと痛んでこの状況の危うさを伝えてくる。
彼は私の身近な男の子だけど、理性を失っている可能性がある男の人だ。逃げなければいけない。
「お願いだからどいてってば!」
今は何を言っても無駄そうだから自由に動かせる足でがむしゃらに蹴りつける。
時谷くんは私の足が体に当たる度にやめさせようと足首を掴んでくるけれど、幸いにもふらふらの時谷くんの力では私を完全に制御することはできない。
「……っ!」
力いっぱい蹴り上げた足に確かな手ごたえがあった。時谷くんは私の上から体を起こし、腹部を抱えて苦悶の表情を浮かべる。
「あ……ご、ごめんね」
少しやり過ぎてしまったかもしれない。その表情に少しの罪悪感を覚える。
私も起き上がり、時谷くんにそうっと手を伸ばそうとした。けれど、
「ったぁ! もうやだっ、どいてよ!」
強い力に押され、再び床に背中を打ちつける羽目になった。
そうして時谷くんが私の脚の上に腰を下ろし、体重をかけてくるからもう足で抵抗することも叶わない。
「ごめん……っなさい」
「ひっ!」
時谷くんの手がスカートに侵入してくる。
触れられた箇所が火傷しそうなほど熱を持った手だ。その手が太ももをやわやわと撫でながら上へと移動していき、下着を履いていない私のそこに直接触れた。
「い、いやっ、お願いやめて!」
時谷くんの手は割れ目に沿って密着され、指先が閉じた秘部をなぞり、手の平の固いところが恥骨を圧迫する。
「……っ」
秘部全体を覆うように這い回る手の感触、そこから伝わってくる温度に思わず出そうになった声を飲み込んだ。
誰にも許したことのなかった場所を無遠慮に触られている。恥ずかしくて恐ろしくて、全身がガタガタと震えていた。
唇を引き結び、嫌嫌と首を振る私をなだめるように時谷くんは手の平を小刻みに揺らして振動を与えてくる。
「ん……」
この異常な状況にありながらも時谷くんの手は決して乱暴ではない。敏感な粘膜を繊細に擦り上げられる刺激にあそこがじわじわ熱くなってくるのを感じる。次第にくちくちと小さな粘着音が聞こえ始めた。
どうしてこんな。この現実から逃げたくてぎゅっと目を閉じる。何も聞きたくないのに拘束された腕では耳までは塞げない。
真っ暗になった世界に響くくちゅくちゅという淫らな水音。この状況から少しでも逃避したかった私の淡い思いを打ち砕いていく。
……やだ、嫌だ。時谷くんが恐ろしくて仕方ないのに、私の体はこの先を期待するように腰を揺らしてしまっている。
「っ、もうやめ……っ」
「はっはっ、綾瀬さっん、ごめんなさ……っ」
時谷くんの呼吸は激しさを増すばかりで冷静になどなってくれそうもない。
やがて時谷くんの指は割れ目の上の方に位置する突起に狙いを定めて、そこばかり重点的に擦り始めた。私ので濡れた指が何度も往復し、敏感な陰核を擦り上げる。
時谷くんの温度が伝染し、じんじんと疼く小さな突起から強い快感が生まれる。
「ん……あ……」
下唇を噛んで堪えようとしても声が漏れてしまうのが惨めで、嫌になる。
これは無理矢理な行為で、私は合意なんてしていない。怖くて怖くて怯えている一方で、体はこの行為に心地よさを覚えていた。
あまりにも精神と一致しない反応だから、この肉体はもう私のものではなくなってしまったんじゃないかとすら思う。
「綾瀬さ……っ、ごめん、なさい……」
時谷くんも同じだろうか。私に何度も謝って、本当はこんなことをしたくないのにやめられずにいる。
固く閉ざしたまぶたを開き、苦しそうな表情で見下ろす時谷くんともう一度向き合う。
「は……はっ……綾瀬さ、ん」
「あ、時谷くん! よかった……」
私の視線に気付いた時谷くんは荒い息を吐きながらもその手を止めた。
やっと冷静になってくれたんだ。急いで上半身を起こすと、私の脚の上に座ったままの時谷くんの顔を覗き込む。
「は、早く下りて! ねぇ、時谷くんっ」
「僕の手、が……はぁ……綾瀬さんので、濡れてる……」
耐えがたいこの状況を早くなんとかしてもらいたくて必死で声をかけるが、時谷くんの耳には届いていないのかもしれない。
さっきまで私のあそこに触れていた手をうっとりしたような表情で見つめている。その表情が妙に不吉に感じた。
「あ……綾瀬さんが僕の手で……っ」
「やっ」
時谷くんの言葉の意味を理解して頬に熱が集まる。
恥ずかしくていたたまれなくて今すぐに逃げ出してしまいたい。しかし時谷くんが上に乗っていては逃げ出せるわけもなく。
「ご、ごめっ……汚いよね!」
ぬるぬるした液体をまとった時谷くんの指が蛍光灯に照らされ光っている。その光景はさっきまでの私の恥態を改めて晒すようで見ていられない。
どうにかして拭いたくて体をよじり、縛られてあまり上手く動かせない自分の手を時谷くんの汚れた手に擦りつけた。
「は、あ……綾瀬さんの……あ、い液っ」
「っ!? やっ!」
ジュル……と下品な音がして指に感じる柔らかくて温かな感触。時谷くんは重ねた私の手の上からその液体に舌を這わせていた。
「なにして!? き、汚いよ」
「んぅ……」
慌てて引っ込めようとした手をひねり上げられ、時谷くんの舌がピチャピチャと音を立てながら手首から指の先まで辿っていく。
「はぁっ……綾瀬さん」
紅潮した顔に見つめられると激しく嫌な予感がした。
「もっと舐めても……いいですか?」
「っ!」
返事をするより早く時谷くんは私の体の上から退いた。けれど、そのまま膝裏を掴んで大きく開かれてしまった。
黒崎さん達にされたみたいに脚をM字に開いた状態で固定される。
「は、離して! 正気に戻ってよ時谷くん……っ」
媚薬の効果で力が入らない様子だった時谷くんの姿はもうなかった。強い力は年相応の男子のものでとても振り払えない。
時谷くんが私の脚の間に顔を近付ける。さらさらの髪が太ももを撫でて、大事な場所に息がかかった。はあ、と吐き出された熱い熱い息は濡れたままの秘部をじんわり温める。
「綾瀬さんの、すごい、綺麗……はっ、はぁ……」
「ひゃ、だ、め!」
「ん……っ」
時谷くんは私の秘部にキスをするように唇を触れさせる。そのまま大きな口を開けて、私のそこに吸い付いた。
「やぁぁっ、あっ!」
ジュルジュルという卑猥な音とともに舌で陰核をめちゃくちゃに揺さぶられる。
感じたことのない強い刺激に、体の力が入らなくなる。もう壊れたように声を上げることしかできなかった。
「ひぁっ、あ……っ」
舐められた部分が火傷したように熱を帯びる。私の内側から溢れ出てくる液体を時谷くんはのどを鳴らして飲み込んでいく。
嫌なはずなのに気持ち良くなってしまっていることが恐ろしい。
私の体の所有権が時谷くんに移って、私が私でなくなっていく感覚。このまま私の全てを食べられてしまいそう――
「だ、れか……だれか助けて……」
「んんっ……じゅっ」
閉じられたこの部屋で、私の声はきっと誰にも届かない。
一際激しくいやらしい音を頭のどこか遠くで聞いたのを最後に、私の意識は途切れた。
▽
次に目を開けた時、自室のベッドの上だった。帰って、こられたんだ……?
ごちゃごちゃとたくさんの物で溢れた私の部屋はなんて人間味があるんだろう。毎日当たり前に過ごしてきたこの部屋が今は特別愛おしく、何よりも安心できる。
縛られた跡こそ残っていないけれどズキズキと痛む手首が、時谷くんの家での出来事は夢ではなかったと証明していた。
気を失った後、どうなったんだろう。私は時谷くんと最後までしてしまったの……?
初めての性行為はそれはもう痛くて血が出るという話を聞くが、今のところあそこに痛みは感じない。時間が経って痛みが引いただけとか?……そんな最悪の状況は考えたくないよ。
時谷くんは媚薬の効果が切れて正気に戻れたんだろうか? 黒崎さん達は?
疑問は尽きなかったが、時計を見るともう十九時を過ぎていた。
二、三時間も気を失っていたらしい。通りでお腹も空くはずだ。
あんなに怖い目にあった後なのに私が案外冷静でいられるのは自宅にいるという安心感が大きいのかもしれない。
(わあ、綾瀬さん小さい。鼻水垂らしてるし、お顔真っ赤ですね)
(ああ、これ大泣きした後ね。あははっ、すごくむくれてる!)
(でも、ぬいぐるみ抱きしめてて可愛いです)
一階に降りるとお母さんと誰かの楽しげな話し声が聞こえてきた。
珍しくお客さんが来ているみたいだ。今は誰とも会いたくないから憂鬱だけど、空腹だから仕方なく台所に入った。
「お母さん、夜ご飯まだかな?」
「七花! 気が付いたのね」
お母さんはすぐに飛んできて私の体をやたらと触ってはおろおろしている。どうやら心配させてしまったようだ。
「もうだい――」
「綾瀬さん、体は大丈夫ですか?」
大丈夫だよと続けようとしたら、お母さんの後ろから顔を覗かせた人物が目に入って固まってしまう。
制服を一切の乱れなく完璧に着こなし、涼しい表情をした時谷くんが立っていた。
我が家の平穏を乱す、不穏な存在――私は少し悩んで、不機嫌を隠さず口を開いた。
「……時谷くん、うちで何してるの?」
「綾瀬さんのアルバムを見ていました。綾瀬さん、泣き虫さんだったんですね」
「はあ!?」
にこやかな時谷くんが手に持っているのは何冊もある私のアルバムのうちの一冊、まだ幼少期のものらしい。
そういうことを聞きたいんじゃないし、状況が全く理解できません……でも、とりあえずアルバムは勘弁して。
私は大慌てでアルバムを取り返したのだった。