Keep a secret

□xxxしないと出られない部屋(前編)
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「時谷く、それ、やぁっ、ん、あ、あっ、んっ、んんん……っ」
「綾瀬さんかわいい。奥を突いたらすぐイク体になっちゃいましたね」

 時谷くんは私が何度達しても動きを緩める素振りはなく、最奥を攻め続ける。
 
「ひっ! あっ、あっ! ふぁあっ!!」
「は……っ、僕も、もう出そうです。僕の精液受け止めてくださいね?」
「んっ、ん、んあっ」

 激しい律動で子宮口をぐりぐりと押し潰されて高みからもどってこられない。乱れる私の上で、時谷くんが「ん」と艶のある吐息を漏らす。

 もうすぐ時谷くんが私の中で果てる。
 やっと、やっとだ。今度こそこの地獄から抜け出せるはずだ――。

 そう思った瞬間、最奥で感じていた熱が離れていく。

「ッ!! やぁっ! 待って、抜かないでっ、抜いちゃやだっ! 時谷くんの精液ください、私の奥にいっぱい射精して……っ! 大好きな時谷くんの赤ちゃん産みたいですっ!」
「ん、最高に可愛い。でも、駄目です。綾瀬さんはこの部屋から出たいだけでしょう? はっ……抜きますね」
「や、やっやだやだ、やぁぁっ!」

 必死に暴れる私を易易と抑え込み、彼が射精したのは膣内のごく浅い位置だった。
 全てを出し切る前にナカから出ていった肉棒は私のお腹に残りの精を放つ。

 私は嫌、嫌……と首を振りながら、ヘソのくぼみに貯まった白濁を眺める。
 これが欲しい。いちばん奥に注いで欲しくてたまらなくて。夢にまで見ている彼の精液が、残酷にも秘裂からどろりとこぼれ落ちる。
 
「扉、開きませんでしたね」

 時谷くんはこの部屋唯一の出入り口に視線を向けて笑う。

「っ、ひ、どい、よぉ……」

 ぷつんと私の中の何かが切れて、涙が溢れ出した。

「うあ、あ、あぁ……っ」
「綾瀬さん、僕も綾瀬さんのことが大好きですよ。子供も産んでほしい。でも、もう少し、もう少しだけ一緒にいたいんです」
「あぁぁぁ……っ!!」

 泣きじゃくる私を抱きしめ、あやす時谷くんの声音は優しく穏やかで、それが私をより深く絶望させた。

 私たちは二十畳ほどの空間に閉じこめられている。何百年前からだったか、もうわからない。
 それだけの長い長い年月をこの部屋で時谷くんと共に過ごしていた。

 どうしてこんなことになっちゃったんだろう――。

 途方もない時が流れたけれど、不思議とこの部屋に閉じ込められる前の記憶が私の中から消えていくことはなかった。
 最後の日の記憶もまるで昨日の出来事のように鮮明に思い出せる。


 あの日は四月一日だった。
 エイプリルフール。新年度の始まり。
 そして、私の彼氏である時谷薫くんの誕生日。

 日中は満開の桜の下でお花見デートをした。良い天気だったけれど、桜が全部散ってしまいそうなくらい強い春風が吹いていた。
 日が暮れる前には時谷くんのお家に移動して二人だけの時間を楽しんだ。
 お母さんに伝えてあった帰宅予定時刻の二十時が迫る頃、時谷くんは私を自宅の前まで送ってくれた。今日のお礼を伝えあい、このままお別れするのが自然な流れだ。

 でも、そうはならなかった。

 時谷くんは名残惜しそうに私の手を握ったまま、
「今日がずっと続いたらいいのに」
 と、こぼした。

「誕生日が終わるのが寂しいの?」

 そう聞けば、時谷くんは手に力を込める。
 
「……綾瀬さんともう少し一緒にいたいです。駄目、ですか?」
「私もそうしたいけど今日はもう帰らなくちゃ……お母さんを心配させちゃう……私たち明日も会う約束をしてるでしょ?」

 今日が楽しかったから離れがたい気持ちは私も同じ。
 でも、明日がある。

「明日は前山田や高橋さんたちもいます」
「うん。でもみんな時谷くんをお祝いしたいって言ってたし……あっ、ならさ、明日は早めに抜け出して、少しだけ二人で過ごそうよ」
「少しだけ……」

 安心させようと笑顔を向けるが、時谷くんは俯いた。重たく長い黒髪が端正な顔に濃い影を落とす。
 
「どうしてこの世界は僕と綾瀬さんの二人きりじゃないんだろう」

 夜風で揺れる前髪の隙間から時谷くんの黒い瞳が見えた。そこだけぽっかりと穴が開いているかのような真っ暗な瞳――。

 ぞわりと恐怖が這い上がる。

 時谷くんとは去年から正式にお付き合いを始めた。いっぱいすれ違い、遠回りをして、やっとたどり着いた交際は上手くいっている。
 ……そのはずだ。

 時谷くんがいて、お母さんがいて、親友のゆかりんがいて、前山田たちクラスメートがいて、学校に通う――私はこの平和な毎日が大好きだし、この先もずっと続いてほしい。
 きっと時谷くんも同じ気持ちだと信じてる。

 いや、そう信じていたかっただけだ。
 本当は時谷くんが胸の内に仄暗い願望を隠し持っていることに気が付いていたけれど、目を逸らし続けてきた。
 
「もうっ、また明日も会えるから寂しくないよ! またね、時谷くん」

 この日も彼の手を振り解き、半ば無理やり話を終わらせた。
 その日は疲れていたこともあり、さっとお風呂に入って日付が変わる前にはベッドへ横になった。


 ――で、気付いたらこの部屋にいた。
 部屋着に着替えたはずなのにどういうわけか私も時谷くんも誕生日デートと同じ服装をしている。

 見渡してみると広さは二十畳くらい。
 天井も床も壁も淡いピンク色のおかしな部屋だ。マットレスのように柔らかい床の上には、赤やピンク色のハート形のクッションがいくつも転がっている。
 他に目につくものといえばこの部屋唯一の出入り口と思しき白い扉だけだった。

「『セックスしないと出られない部屋。クリア条件を達成すると自然に扉が開きます』え? 何これ夢? 夢だよね?」
「綾瀬さん、見てください。小さい文字で注釈があります」
「あ、ほんとだ。えーっと」

『※女性器の最奥で射精を終えなければセックスとは認められません』

 夢なら覚めてほしいと思いきりほっぺをつねってみても現状は変わらず、私達の前には『セックスしないと出られない部屋』と書かれた扉があった。
 それから二人がかりで扉と格闘し、これは開かないと早々に判断した私は提案をした。
 ちょっと不安だけど、扉に書かれている通りにしてみようって――。


 床全面がふかふかのベッドみたいなこの部屋は「さあ、どこででもご自由にセックスしてください」と言わんばかりで、逆にどこも落ち着かない。
 私達は怖ず怖ずと部屋の中央に座った。

「時谷くん、あんまり見ないで」

 顔中にキスを落とされて、時谷くんの唇が首筋、胸元へと下がっていくうちに私の春ニットとスカートは脱がされていた。
 体を少しでも隠したくて抱きしめた大きなハートのクッションは、時谷くんの手によってすぐに没収される。

「隠さないでください。この上下セットの下着、僕とのデートのために買ってくれたんでしょ? 目に焼き付けておかないと」
「も、もう見たでしょ」
「もっと見たいんです」

 照明の類があるようには見えないのになぜか明るいこの空間で下着姿――それも張り切って新調した、いわば勝負下着姿なのだ。
 服だってもちろん時谷くんの誕生日デートのために買ったもの。こんな異常な状況、場所なのに浮かれているみたいで恥ずかしい。

「私ばっかりやだよ……時谷くんも脱いで……」
「ふふっ、はい」

 時谷くんは頷くと、春でも黒ずくめの服を手早く脱いでいってグレーのボクサーパンツ一枚になった。
 色白で細身。だけど、意外と肩幅があって筋肉の付き方も男の子って感じがする時谷くんの裸体。何度見ても照れてしまう。

 目のやり場に困って俯いた私の耳元に時谷くんが唇を寄せる。

「秘密にしてたんですけど、実は僕も張り切って全身新品で揃えてます」
「そ、そっか。そうなんだ……」

 ――私と一緒だ。

 ああ、この人のことが好きだなぁ……。
 自然と湧き上がる感情とともに笑みがこぼれる。

 時谷くんが服を脱ぐのは大抵挿入する直前だ。私はその頃には前戯でどろどろに蕩かされていて、いつも余裕がない。
 今日も彼がどんなパンツを身に着けていたのか記憶になかった。
 で、でもまあ、時谷くんも張り切ってたっていうなら見てあげてもいいかもね……と言い訳しながら下半身に目をやって、息を呑む。

「っ」

 グレーのパンツの前部分が大きくテントを張っていて、その中心は先走りで濃い染みを作っている。

「……時谷くんもう勃ってるの?」
「っ、そうですよ! 悪いですか? 好きな女の子の、綾瀬さんの体に触れて、今もこんな、下着姿で僕の前にいるんだから……興奮しますよ。痛いくらい勃ってます。綾瀬さんが可愛すぎるのがいけないんですよ」

 時谷くんはムッとした表情をしながらも頬を赤らめている。

「あはは」

 時谷くんからの愛情は常に感じている。それこそ不安に思う余地なんて微塵もないくらいに。
 それでもこうした瞬間に改めて彼に愛されていることを実感し、幸せだなと思う。

「続き……してもいいですか?」
「うん」

 突然こんなことになって不安だけれど、一緒に閉じこめられた相手が時谷くんでよかった。


「あ、あ……」
「綾瀬さん、痛くない?」
「う、ん、気持ち……っ」
「僕も。綾瀬さんの中とろとろで気持ちいいですよ。奥まで挿れるね」
「ん……ふぁっ、あっ、あ」

 指と舌で愛されてぐずぐずになった秘所が、時谷くんの性器をすんなりと奥まで受け入れる。
 正常位での挿入。私を安心させるための優しいキスが時折降ってくる。

 時谷くんは意地悪な言葉を吐くこともあるが、基本は私を大事に思っていることが伝わる優しいエッチをしてくれる。
 時にはお仕置きと称して乱暴に、腰が砕けそうになるほど抱かれる日もあるけれど、なんとか誤解を解いて仲直りできている。それに、時谷くんとならたまにはそういうエッチもいいかもしれない。たまーになら。

「っ、ふ……っ」
「綾瀬さん、声我慢しないで。手を繋いでいましょう?」
「んんっ、だ、だって気持ちくて……声おっきくなっちゃう……」
「いいんですよ。ここは綾瀬さんの部屋じゃないですし、僕の家みたいに邪魔な宅配便が来ることもありません。僕と綾瀬さん、二人きりの世界です」
「時谷くんとふたり、きり……んぁっ!」

 緩やかだった律動が早くなる。時谷くんが腰を引いて、膣の入口の粘膜を擦り上げて、また奥まで挿れて。
 恋人繋ぎで両手の自由を奪われてしまったから、もう声は抑えられない。

「あっ、あっ、んああっ!」

 私が気持ち良くなれるところを的確に責めてくる動きに合わせて声が漏れてしまう。下のお口もぱちゅんぱちゅんと淫らな音を奏でていた。

「やっ、だ、め、あっ、あっ」
「ん……駄目じゃないですよ。ここも舐めてあげるから、もっと気持ちよくなって」
「ひっ、あ、あっ!」

 前戯の際、指でコリコリと弄られ、舌で転がされ、今も唾液で湿っている胸の尖りがまた時谷くんの唇に含まれた。
 ちゅうっと強めに吸われる。

「――っっ!!」

 時谷くんの口の中は溶けそうなほど熱かった。私はあそこを強く締めつけ、びくびく震えながら達した。

「綾瀬さん、ごめん……もう動いていい、ですか?」

 はー、はー、と肩で息をする私が落ち着くのを少し待ってから、時谷くんは艶のある声で尋ねてきた。
 時谷くんの性器は避妊具を付けていない。直に感じる温度は火傷しそうなくらい熱くて、質量も普段より大きかった。

「あ……んっ、うん……っ、あっっ!」
「はっ、はっ……綾瀬さ……っ」

 そこからは時谷くんが気持ちよくなるための性急な動きに変わった。

「んっ、綾瀬さん、やば、い。幸せ……です。綾瀬さんとの時間を誰にも邪魔されない、こんな、こんな場所があるなんて、夢みたい……」
「んあっ、あっ、あっ」

 時谷くんは熱に浮かされた表情で私を見下ろしながらうわ言のように呟いている。
 時谷くんが奥を突き上げる度に秘裂や尻肉にぺちぺちと当たっている陰囊はいつもより固い。前戯の前から先走りを垂らしていたのにまだ一度も達していないから、苦しいだろう。

 きっと精液がいっぱい溜まってる……。
 そう考えると、いけないことなのにお腹の奥がキュンと疼く。
 ほんとにしちゃうんだ。時谷くんと中出しセックス。
 でもしょうがない、よね。そうしないと出られない部屋なんだし。

「はっ、はっ、綾瀬さん、好きです、愛してます……っ」
「あっ、あっ、私も好き……あっ、わた、し、またイ……っ、んんんっ」

 時谷くんが私と額を合わせてブルリと震える。中で熱が放たれたのを感じる。
 それと同時に時谷くんへの愛しさが込み上げてきて――願ってしまった。
 もう少しだけ、この時間が続いたらいいのにって。


「時谷くん、時谷くん」

 小休止を挟んでから、私の上で脱力している時谷くんの体を揺すり起こす。
 私は脱ぎ捨てた服を手繰り寄せて体を隠しながら扉を指さした。

「開いた気配ないけど……今なら開くのかな?」
「……開かないと思います。セックスの定義を満たしていないので」
「でも時谷くんイッたでしょ? その、わ、私の中で」
「イク間際に腰を引いてしまいました」
「えっ、嘘。気付かなかった……」

 この部屋の扉はただの中出しセックスでは開かない。『最奥』で射精する必要がある。
 となると今のエッチは失敗ってこと?

「ごめんなさい。わざとそうしたんです」
「……わざと? どうして?」
「綾瀬さん、僕の誕生日はまだ続いていると思うんです。もう少しだけ一緒にいたい……駄目、ですか?」

 縋るように私を見つめる瞳は潤んでいた。
 今日のデートの別れ際も時谷くんは私と一緒にいたいと望んでいたのに、一方的に話を終わらせてしまった。
 思い出して胸が痛む。

「もう……わかったよ時谷くん。少しだけだからね? 誕生日だから特別だよ」

 ――ほんの少しだけ時谷くんと二人きりの時間を楽しむつもりだった。


 この時の私は思いもしなかった。
 この部屋に共に閉じこめられた相手が時谷くんであったことを深く後悔することになるなんて――。


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