Keep a secret

□罪悪感と欲望
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 ソファーに深く腰掛け、前だけズボンをずり下げて性器を露出させる。
 半勃ちの性器を軽く握り、空いている手で遊園地の写真の中から特にお気に入りの一枚を取り出した。

 無邪気な笑顔で手を振る写真に性的な要素はないが、見ていると綾瀬さんを好きな気持ちが込み上げてきて性器はみるみる反応を示した。
 知っている唾液の味と舌の感触、知らない唇の柔らかさを夢想しながら写真に顔を寄せる。俺に笑いかけてくれている綾瀬さんにそっと口付けた後は無我夢中で舐め回すようにキスをした。

 完全に勃起した性器の先端から先走りが垂れ始める。こうなってしまえば自分でも怖いくらいに綾瀬さんを形作る全ての物に欲情してしまう。
 手書きの手紙の可愛らしいひらがな。とめはねはらいが丁寧な"学校"や"友達"の字。
 こんなものまでもが俺を興奮させる材料だった。

 しばらくキスを続けていたら写真がふやけてしまった。笑顔の綾瀬さんが俺の唾液で汚れている。

「は……っ」

 荒い息を吐き出しながら手の甲で写真を拭う。こんな風に綾瀬さんの唇がふやけてしわしわになるまでキスできたらどんなにいいだろう。
 大切な写真をテーブルの上に戻すと、綾瀬さんの唇を奪い、口内を荒らす妄想を膨らませながら性器を扱いた。

 入浴時に脱いだズボン、洗わなければよかったな。綾瀬さんの大事な場所に触れた膝部分の匂いを嗅いでおくべきだった。
 脱衣所には綾瀬さんの下着だってあったが、俺は何も悪いことはしていない。
 綾瀬さんが身にまとった物は神々しくて、俺のように下賎な者が気安く触れたら天罰が下ると思った。

 けど、それ以上に。万が一にも綾瀬さんに見つかったら軽蔑されるからやめておいただけだ。
 俺は綾瀬さんに散々酷いことをしてきたんだ。罰が当たってろくな死に方ができなくてもいい。地獄行きでもいい。
 少しでも多く綾瀬さんに触れたい。

「綾瀬さん……」

 ふと目に入ったソファーの座面を撫でる。
 俺が今座っている位置の隣。この席は綾瀬さんの定位置だ。
 そこを撫で回すと間接的に綾瀬さんに触れているような、おかしな気分になれた。
 俺はソファーからずるずると滑り落ちて床に座った。そのまま綾瀬さんがいつも座っている位置を撫で続ける。
 ソファーカバーのしわに人差し指と中指を這わせ、綾瀬さんの陰核を愛撫するように捏ねくり回し、優しくつまんだ。

「うぁっ、あ……っ」

 興奮を抑え切れない。先走りで濡れた性器を激しく擦る。
 自分から漏れ出る情けない声は無視して、くちくち鳴る音は綾瀬さんが濡れていると都合良く変換した。
 射精感が高まっているけど、まだ出したくない。もう少しだけ……と、扱くスピードを緩めてソファーに顔を埋めた。

「……はっ、ん……」

 その弾力を顔で感じながら鼻から肺いっぱいに息を吸う。
 綾瀬さんの匂いがほんのり残ってる。そう、確かに思った。

 多分、俺のたくましい妄想力がそう感じさせているだけだろう。
 昔と違い、今の俺は綾瀬さんの体を隅々まで見たことがあって、匂いも味も内側の感触もイクときの表情も知っているからイメージが容易いのだ。

「はぁっ……綾瀬さん……かわい……」

 綾瀬さんの秘部に顔を埋め、溢れる滴を舐めとって敏感な陰核を舌の先で弾く。

 ――時谷く…やぁっ、あっ、もうイク……っ!

 僕も限界です。一緒にイッてください。
 彼女の反応を上目で確認しながらそう返して、びくびく震える陰核に吸い付いた。

「……綾瀬さ……っ、綾瀬さん、綾瀬さ、ん……すき……綾瀬さん……す、き……すき……っ」

 ソファーのしわを舐めて、吸って、頭の中の綾瀬さんへ精一杯愛を伝える。
 その間にも右手を激しく動かして扱きながら左の手の平で亀頭を包んで刺激する。

 キィ――
 ムズムズしてもう出ると思った時、ドアが開くような音が聞こえた。

 血の気が引く。射精直前だった性器も固さを失った。ドアへ視線を向け、萎えた性器を下着に押し込んですぐに立ち上がる。
 物音はそれっきり。でもさっき間違いなく聞こえた音の正体は……?

 今この家には二人しかいないから必然的に綾瀬さんということになってしまうが、どうか幽霊であってほしい。
 心霊現象よ、現実に起こってくれ。
 馬鹿なことを願いながらドアの前に行くと、ドアが少し開いていることに気付いた。

 俺がしっかり閉めなかったのだろうか?
 適当に閉めているから少し開いていたとしても特別珍しくはない。
 綾瀬さんに見られていませんようにと最後にもう一度強く祈り、ドアを開けた。

 静かな暗い廊下には誰もいない。
 綾瀬さんの姿もなければ幽霊が恨めしげに立っているということもなかった。
 音がしてからドアを開けるまでの間はほんのわずかだった。この間に足音一つ立てずに去ることは不可能だろう。
 恐らく閉め忘れたドアが隙間風か何かで揺れて音がしたんだな。または幽霊の仕業か。
 どっちでもいい。綾瀬さんとは関係ないようで命拾いした。

「よかった……」

 ホッと胸を撫で下ろす。
 あんな変態的な自慰に耽っている場面を見られたら、今後どんな顔をして綾瀬さんと話せばいいのかわからなくなる。
 安心してドアを閉め、ソファーに戻った。


 しばらくして、後片付けを始める。
 先走りで濡れた手をティッシュで拭いた後に洗面所で綺麗に洗った。汚れた手で触ったドアノブの消毒も忘れない。
 次にソファーカバーを外す作業に取り掛かる。俺はあれから再度抜き始め、カバーの上に吐精してしまったのだ。

 汚れたカバーはもう捨ててしまおう。
 折り畳んでゴミ袋に突っ込み、新品のカバーを掛け直していく。自業自得とはいえ骨が折れる作業だ。

 なに馬鹿なことをしてるんだろうな。
 あんなに冷や汗をかいていたくせに綾瀬さんに覗かれた妄想を繰り広げながら抜くだなんて。冷静に考えると俺って本当にどうしようもない奴だ。
 頭の中で犯し、汚してしまった綾瀬さんに申し訳なくて自己嫌悪に陥る。

 俺は作業を終えると二階の空き部屋で眠るために立ち上がった。
 明日……というより今日は何をして過ごそうか。綾瀬さんと一緒なら生命維持活動だけでも楽しい。

 綾瀬さんを起こさないように静かに階段を上っていく。
 一緒に眠れないのは寂しいけど、この家から出て行かれなかっただけマシだ。
 俺から逃げるために駆け込んだ避難場所が俺の部屋だという事実にも少し心躍る。
 俺の痕跡だらけの部屋に綾瀬さんを閉じ込め、一晩かけてじっくり匂いを染み込ませ、マーキングしているみたいだ。

 自室の前で立ち止まってドアに手を置く。
 このドアの向こう、俺のベッドで綾瀬さんが無防備に眠っている。
 それだけでも十分幸福なことなのに。俺はどんどん欲張りになって、この程度の幸せではもう満足できなくなっている。

 だけど今この瞬間だけは初心に返るような気持ちでドアに頬を寄せた。
 気持ち良さそうに眠る綾瀬さんの寝顔を思い浮かべ、うっとりと目を閉じてドアに頬擦りする。
 綾瀬さんはなんて可愛いんだろう。
 俺はね、綾瀬さんの笑顔を遠くから見ているだけで幸せで――

「ん……あ……っ」

 ふいに耳に入ってきた綾瀬さんの声に、思考が停止した。それは性的なものを帯びた声としか言いようがなく。

 ――このドアの先に広がる光景が見たい。

 そう考えた次の瞬間にはポケットからスペアキーを取り出し、鍵穴に差し込んでいた。
 さっきまで存在した罪悪感と理性はかなぐり捨てて。純粋な欲望に従い、鍵を回す。

 カチャ、静かな廊下に解錠音が響いた。
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