Keep a secret

□大好きな宝物
1ページ/1ページ

 宝物を自室のクローゼットの中の金庫に隠している。それは宝箱なんて可愛らしいものじゃない。厳重なロックがされた重く冷たい鉄の箱だ。
 大好きで大切な宝物が汚れないように、誰かに奪われないように、暗くて狭い世界に閉じ込めている。


 ***


 見たらいけないことはわかっていた。
 見たら必ず後悔する、そう確信していたのに。綾瀬さんのスマホの画面が"前山田日向"からの通知で明るくなったのを見て、俺はつい手に取ってしまった。

『俺が選んだブラ着けてるとこ早く見せてほしいしな!笑 ピンクの勝負下着!笑』

 ロックナンバーは彼女の趣味嗜好を理解していれば突破できるものだった。
 だから、この信じられない文面が俺の目に触れることになった。

「ピンクの下着……」

 めくり上げて明らかになった綾瀬さんの下着。それは普段可愛らしい淡い色の下着を身に着けていることが多い綾瀬さんが選ぶ印象のない派手なものだった。

 前山田が選んだからだ。
 前山田のために"勝負下着"を買ったから。

 前山田に抱かれるのか?
 あいつが綾瀬さんの白く滑らかな肌に吸い付いて、俺しか暴いたことのない場所に欲望を突き立てる。
 綾瀬さんは美味しい蜜を溢れさせてあいつを歓迎し、俺に聞かせてくれたみたいにいやらしい声であいつを求めるの?

 俺以外の奴が綾瀬さんに触れる。
 綾瀬さんを他の誰かに奪われる。

 その可能性を俺の脳が噛み砕いた瞬間、動悸と目眩と吐き気に同時に襲われた。全身が火を吹きそうなほど熱いと感じるし、凍りつきそうなほど冷たいとも感じていた。

 ――許せない。そんなこと絶対にさせない。


「やっ、ま、待ってよ! 日向とはそんな関係じゃなくて……っ」
「なら僕の言う通りに返信できるはずです」
「だ、だって……っ」

 ソファーの上で俺に組み敷かれた綾瀬さんは体をよじって抵抗する。

「ひっ」

 貸していたジャージを素早く足首まで下ろしてやれば彼女は声を詰まらせた。
 俺と付き合っているからもう連絡してくるな。そうやって前山田に伝える、たったそれだけのことなのに綾瀬さんは拒否するのか。

「私は日向と」
「――あいつは前山田ですよ。名前で呼ばないでください。不愉快です」

 綾瀬さんに"薫"と呼んでもらえたら、綾瀬さんを"七花"と呼ぶことができたら、どれだけ幸せだろう。
 なんてことない俺の名前も綾瀬さんの唇で紡がれたらきっと特別になる。
 俺は綾瀬さんに名前を呼ばれるたびにその特別を頭の中の宝箱にしまうだろう。そうして幸せを噛みしめながら大切に大切に、彼女の名を呼び返すのだ。

 こんな空想をすることはあっても口に出したことは一度もなかった。付き合ってもない俺が求めてはいけないと、過ぎた願いだと、我慢してきた。
 それなのに前山田はこの特別をいとも簡単に手に入れる。俺の目の前で掠め取っていく。それが腹立たしかった。

「ま、前山田くんと」

 綾瀬さんが呼び名を改める。彼女は震える腕で胸や下着を庇って、俺の視線から逃がそうとしていた。
 どす黒いものが渦巻く俺の心。表の顔にも現れてしまっているだろう。
 俺に怯えていてもいじらしく下着を隠そうとするのは、前山田のために買った勝負下着を俺に見せるのが嫌だから?

「この下着、えっちですね。綾瀬さんの白い肌にすごく似合ってる」
「時谷く……っ、んぅっ」

 ショーツのクロッチに沿って中指を這わせる。つるつるの生地を通り、バックレースになったお尻の方まで指を滑らせる。この下着は肌を隠す面積が少ない。

 許せないと思った。
 俺の綾瀬さんが、俺だけの綾瀬さんが、他の男を誘うためにいやらしい下着を身に着けている――
 この下着ごと汚してやりたいと、そう思った。

「それで、前山田が何ですか?」
「ひぁっ、ぐ、偶然だよ……っ偶然これを買うときにお店で会っただけでっ、んっ、あっ」

 爪を立てながら秘裂に沿ってゆっくりと指を這わせてやると、綾瀬さんはびくびくと体を震わせる。湿り気を帯びてきた薄い布地が張り付き、綾瀬さんの形を浮き上がらせていた。

「買い物をした日に前山田が近くにいたことは知っています。僕が聞きたいのはどうして前山田のために下着を買って、前山田に裸を見せる話になっているのかってことです」
「あっ、あ……っ、そ、れはっ、あっ!」

 滑らかな触り心地の下着を上から下へ、下から上へ往復させていると、秘裂の上のほうの突起に指が引っ掛かる。
 俺がいつも可愛がっている陰核が膨らんで固くなっていた。陰核だけを集中して爪先でカリカリと引っ掻く。

「んあっ、前山田く、が……っ」

 歯を食いしばって耐えようとすれば喋れず、喋ろうと口を開くと甘い声を漏らす。綾瀬さんは俺によって股を大きく開かされ、ソファーの下に片脚だけだらりと垂らしたまま、悩ましげな視線を向けている。

 ――許せない。許せないんだよ。
 綾瀬さんのこんないやらしい姿を俺以外が見るだなんてこと、絶対に。

「はい。前山田くんが?」

 前山田への嫉妬で腸は煮えくり返っているが、俺の声は思ったより淡々としていて無感情に聞こえる。
 綾瀬さんは俺の下でいつになく怯えているように見えた。

「あっ、んぁっ、え、えと……んっ、前山田くんが言ってたの……っ」

 もう片方の手をブラの隙間から差し込む。手のひらに伝わる感触に感動を覚えた。
 綾瀬さんはどこもかしこも柔らかいが、特に温かく柔らかい膨らみが早いペースで脈打っている。

 綾瀬さんが生きている。俺にドキドキしてくれている。
 その事実が皮膚を通して伝わってくることが嬉しくて、幸福に浸りながら乳房を揉みしだく。荒々しく性急な愛撫。それでも窮屈なブラの中で手のひらに擦れて潰れる突起はすぐに固くなった。

 この間にも陰核への責めを受け続けている綾瀬さんの秘所はしとどに濡れて、布地が吸いきれない愛液が太ももにまで伝っていた。
 怯えているのに感じている。なんていやらしいんだろう。綾瀬さんはこんなにも淫らな子だっただろうか。

「なんて言ってたんですか?」
「ひ、ひな……前山田くんがこの下着でメロメロになるって――っ!」

 綾瀬さんは言葉を発した瞬間に慌てたように口元を手で隠す。「まずい。こんなこと言うつもりじゃなかった」という心の声が面白いように聞こえてくる。

「ち、違う! 日向にそうなってほしかったわけじゃなくて……っ、メロメロになってほしくて買ったけど、違くて! わ、私は……っ」
「綾瀬さん。言ってることが無茶苦茶ですよ。前山田を誘っておきながら僕に嘘をつこうとしてる悪いお口はこの口ですか?」
「んんっ!?」

 乳房に触れる手を止め、何かを必死で訴えようとしている綾瀬さんの口に指を侵入させた。嘘つきな舌を根っこから引っ張りだそうとするも、唾液でぬるぬるのそれは俺の指から逃げ惑う。
 だけど小さい口腔内で動く舌は唾液を絡ませながら俺の指を舐め回し、愛撫してくれているようにしか思えなかった。

「ふ、ふそじゃなっ、う……っくっ、ひぁ、あっ」

 二本の指で舌を挟んで舌の先から指が届く奥まで扱きあげる。
 下半身では芯を持った陰核をぐりぐり押し潰して刺激すると綾瀬さんは軽くえずきながら甘い声を上げた。
 されるがままでだらしなく開いた唇の隙間から唾液がこぼれて顎を伝う。もったいない。鎖骨から首筋、顎を伝い、唇の端まで舌を這わせて、その唾液を舐め取る。

 ああ……俺を見上げるとろんとした瞳も、濡れた唇も、赤い舌も全てが美味しそう。

「嘘をつくならベロ噛み切っちゃいますよ」
「ふっ……んっ、んんー……っ」

 引きずり出した舌に俺の舌を絡ませて吸い付き、軽く歯を立ててやれば綾瀬さんは熱っぽい息を吐く。
 綾瀬さんの下の口もくちゅくちゅと音を立てている。陰核と割れ目を執拗に撫で続けている俺の指は、下着から溢れた愛液でもうびしょ濡れだった。

 噛み切ると脅されながらも綾瀬さんは気持ちよくなってしまっている。
 俺に強引に求められることがなければ知らなかった快楽のはずだ。
 綾瀬さんはこんなに淫らな子じゃなかった。そうだ、俺が綾瀬さんの心身を作り変えたんだ。
 だから綾瀬さんは俺の自慰なんかに興奮して自らを慰めていたし、お風呂場でもあんなに乱れてた。

「前山田より僕のほうが綾瀬さんを満足させてあげられます」
「んっ、んんっ、ひぅっ、ち、がう、違うの……っ」

 綾瀬さんは必死で首を振る。前山田になら唇も許すのだろうか。
 逃げようとする舌を指で固定して、彼女の薄い舌にしゃぶりつく。
 綾瀬さんの唾液が、舌のざらざらした感触が、甘い毒みたいに俺の脳髄を満たしている。

「綾瀬さん、綾瀬さ、ん……っ!」
「あっ、ああっ、んん……っ」

 服をまくりあげられ、脚を大きく開かされ、怯えながらも蕩けた表情をしている綾瀬さんが魅力的で、可愛くてエロくて愛おしくて頭がくらくらする。
 目の前のあまりの絶景に、涙が出そうなほど興奮していた。

 頭の中は綾瀬さんが前山田に抱かれる最悪な想像と、綾瀬さんを奪われることへの恐怖と、前山田への嫉妬で溢れているのに、綾瀬さんの乱れた姿を見ていたら否が応にも全身が熱くなる。
 はち切れそうなくらい固くなっている自身が下着に締めつけられて痛い。

「はっ、はぁ……誰にも見せないでください。僕以外の誰にも綾瀬さんのこんな可愛いところ見られたくないんです」
「時谷くっ、や、やぁぁ……」
「綾瀬さんがえっちになっちゃったのは僕のせいです。責任とって僕が一生可愛がってあげますからね」

 悔しくて悔しくてたまらないのに、普段とは違う、男を誘うためのいやらしい下着を身に着けている綾瀬さんの姿に俺は酔わされていた。
 興奮のあまり、薄ら笑いを浮かべてしまっているかもしれない。
 窮屈な前だけを寛げて、綾瀬さんのぐしょぐしょのショーツを少し横にずらし、欲望をあてがう。

「いっぱい悦くなりましょうね?」
「とき……っ、ひゃぁあっ!」

 ぴったり閉じた膣口を拡げながら腰を進めると綾瀬さんの腰が跳ねる。直接解していない膣内はきつく締まっていて、俺のが半分ほどしか収まらない。
 どろどろになった綾瀬さんの内側で、感覚の鋭い亀頭を締め付けられる。強烈な刺激に歯を食いしばり、彼女の浅い場所から解すように緩いピストンを開始した。

 綾瀬さんの愛液で濡れた自身が、彼女のいやらしい下着の隙間から出て入ってを繰り返す。扇情的な光景。
 思わずブラジャーをたくし上げて、露わになった双丘を揉みしだく。俺の手の中で柔軟に形を変える膨らみに興奮しながら、その頂に吸い付いた。

「ふぁっ、あっ、あっ!」

 固くなったその尖りを舌の上でコロコロと転がすと、綾瀬さんは素直に声を漏らしながら俺の髪を力なく握る。
 膣内が緩んだ隙を逃さず、自身を限界まで引き抜いた。ぷっくりとした赤い尖りに強く吸いつきながら最奥まで一気に貫く。

「あ――っ!」

 綾瀬さんが大きく口を開けて腰を浮かせる。中がびくびく震える刺激に俺まで持っていかれそうになるのを何とかこらえる。

「はっ、綾瀬さん……っ、すごい。中イキ出来ましたね。クリトリスを触らなくてもイケるなんていい子ですね」
「あ、あ……」
「はは……エロい顔。もっと、もっと気持ち良くなりましょうね。今度はクリも触ってあげるから……っ」
「ひっ! や、やぁっ、あああっ!」

 綾瀬さんの呼吸が整うのも待たずに腰の律動を再開する。
 邪魔な下着をよけて敏感な陰核にも触れる。とぷとぷ溢れ出てくる蜜を掬いとり、たっぷり濡らした指で陰核を挟んでくるくる円を描くように刺激してやる。
 綾瀬さんは俺に揺さぶられながら嫌、嫌と首を振っているが、その表情は快楽に支配されていた。

 ああ、やっぱりだ。綾瀬さんを気持ち良くしてあげられるのは俺だけなんだ。
 綾瀬さんの心が受け入れるのもきっと俺だけのはずだ。

 ――そう、少しだけ思えた瞬間に、全てをぶち壊す短い通知音が鳴った。
 ラインだ。また、前山田から。


次の章へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ