Keep a secret

□誤解してるよ
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 時谷くんの赤い舌が脇から胸へと近付いてきて、膨らみに沿って舌が這う。乳房の形を確かめながら、柔らかく甘噛みをして感触までも楽しんでいる。
 舌の通った場所は唾液で濡れて、いやらしい軌跡を描いていた。

 見ていられなくて目を逸らすと、からかうように胸の頂を吸い付かれる。

「んっ」
「綾瀬ひゃん、好きれふ」

 時谷くんの口の中で乳頭の窪みを舌で突っつかれ、押し潰される刺激に秘所がじわじわと熱くなる。時谷くんはひとしきり舐めると反対側の頂も同じように口に含んだ。

 熱を孕んだ瞳が私をじっと観察している。
 視線から逃げたくても目のやり場に困る。男性と女性の体の作りは違う。時谷くんが私の前で膝をつき、両脚を閉じていてもパンパンに膨らんだ性器は丸見えだった。
 私はそれをつい盗み見ては首を振って視線をさまよわせる。

 時谷くんは乳首に好き勝手吸い付き、舌で転がすのに飽きると、今度は大きく舌を出して乳房からお腹まで無遠慮に舐め回し始める。胸もお腹もへその窪みまで唾液でぬるぬるになっていく。
 蒸し暑いなか、時谷くんの舌が触れた箇所は火傷のような熱を持った。

「ちょっと時谷くん。髪の毛食べてるよ」
「ん……んぅ……」

 胸元に張り付いていた私の髪の毛が口に入るのも気にせず夢中で肌を貪る姿は躾のなってない犬のようだ。
 私の目にはそんな少し間抜けな時谷くんの姿も可愛らしく映ってしまうから、この恋は結構重症かもしれない。

「早く吐き出して!」
「問題ないです。僕の胃は綾瀬さんの髪なら消化できると思います。ん……っ」
「ああっ、飲んじゃ駄目!」

 髪の毛が喉に絡みついて変な感じがするのだろう。時谷くんは険しい表情で何度も喉を鳴らして飲み込もうとしている。

「ごめんなさい。もう飲んでしまいました」

 掴まれていた手をやっと振り解いた時には手遅れで。時谷くんは上気した顔でにこりと笑った。

「もうっ信じられない! 時谷くんはどうしてこう、いつもいつもっ」
「綾瀬さん、怒らないで?」
「っ、ひゃっ!?」

 右足をいきなり胸の高さまで持ち上げられ、危うく椅子から落ちるところだった。
 時谷くんは私の足の裏に愛おしげに頬擦りをし、労るように両手で撫でさする。

「綾瀬さん、好き……」

 時谷くんがかかとから指先まで足の裏の皮膚を舐めながらうわ言のように呟く。
 足の裏なんか清潔とは言えない。しかもまだ洗っていないのだ。
 私が常日頃見惚れている綺麗な顔がそんな場所を舐めている。秘部を触られるのとはまた違った羞恥と罪悪感があった。

「汚いから! 駄目だよ、やめて!」
「ん……」

 懇願する私の姿を一瞬見上げてから、熱い舌がゆっくりと足の甲に移動していく。が、地面につかないところだからいい、とかの問題じゃないんだよ!
 足全体をマッサージするように手のひらで揉みながら、足首から指の付け根までツーと骨をなぞっていく舌先。足を触られるのはくすぐったくて私は身をよじる。

「ねぇ、綾瀬さんの飼い犬になればシュガーみたいにキスも許してくれますか?」
「なに馬鹿なこと言ってるの? ないない。ないよ。それに、時谷くんは犬より飼い主タイプでしょ」
「あははっ、酷いなあ。そんなことないですよ。ご主人様に噛みつく駄犬ですけど可愛がってくださいね?」

 また都合の良いことを言って私の親指をくわえ、軽く甘噛みしてみせる。
 片脚を上げられているせいで隠すことができない脚の付け根に、まとわりつくような熱っぽい視線が注がれる。きっと私のそこは濡れてしまっているんだろう。
 私の足を犬みたいに舐めていたって時谷くんのほうが優位にある。私と時谷くんの間に上下関係があるとするなら、今でもまだ時谷くんがご主人様に違いない。

「ああ……爪の形も綺麗。僕は綾瀬さんの足の先まで大好きですよ」
「っ」

 親指の次は人差し指、中指と順に続けられ、右脚が疲れてきた頃、左脚を持ち上げられた。そうして今度は左の足の指を根本まで口に含んで指の股を執拗になぶる。

「んっ……ずっとこうしていたいな」

 最後に強く吸い付き、ちゅぽんと音を立てて口から離すと、時谷くんは自分の唾液で濡れた指を満足げに眺めた。

 全身ピカピカに磨く――さっきそう言っていた。気が済むまで続ける気なんだろう。
 今度は左足の裏に舌を這わせ始める時谷くんに、私は気が遠くなった。


 ふやけるまで足を舐め回されて、次はふくらはぎから膝裏、太ももまで舌が往復する。
 内ももの際どいところに舌がくると興奮している時谷くんの息の熱さを秘部で感じた。思わず期待で跳ねてしまう太ももを押さえつけられる。
 時谷くんは私の脚を左右に割り開き、その間に陣取って座っている。私が濡れていることにはとっくに気が付いているはずだ。
 しかしマイペースに太ももに舌を滑らせ、嬉しそうに吸い付いたり、軽いキスをするだけで秘部には触れてこない。

 意地悪をしているというよりも私のことは置いてきぼりで自分が満足するまで純粋に愛でていたいだけに見える。

「な、なんかまたのぼせちゃったみたい。お風呂出たいよ」
「大丈夫ですか? 最後にここを綺麗にしましょうか」

 私の嘘は見破られたらしい。舌を少し出して悪戯っ子のように笑った時谷くんが、ひくつくあそこに顔を埋める。

「っ、あ……っ!」

 お尻から陰核まで舐め上げられる。欲していた直接的な刺激。私の口から漏れた声は歓喜に震えている。
 舌を離すと、膣との間に透明な糸が引く。それを器用に舌で絡め取る時谷くんの表情は酷く扇情的だった。

「すごいぐちゃぐちゃ……綾瀬さんがエッチなのでしばらくお風呂から出られそうにないですね」
「っひぁっ!」

 性器を指で左右に開かれて、露出した粘膜にぬるりとした感触が襲う。唾液をまとった舌と熱い吐息でそこは痛いほど熱くなっていて、奥からは愛液が溢れてくる。
 時谷くんの舌は女性器の複雑な溝や皺の隅々にまで這わされる。執拗なほど丁寧な舌使いに私は追い詰められていた。

「時谷くんっ、ひゃっ、ああっ!」

 時谷くんは私の恥ずかしい場所をまじまじと観察しながら、割れ目の一箇所を集中的に責め始めた。
 そこだけを舐めやすくするために周りの粘膜を広げて固定して、尖らせた舌を少し強めに押しつけられる。舌先がチロチロと動いて、何かを舐め取っていた。
 恥垢を綺麗にされている、そう何となく察してしまった。この世から消えたいくらい恥ずかしいのに、気持ちよくてたまらない。

「んぅっ、綾瀬さん、綾瀬さっ」

 濡れた秘部の表面を舌先が踊る。時谷くんはぴちゃぴちゃと淫らな音を立てながら興奮した様子で愛液を飲み下していく。
 あと少しでイケそうだけれど。その少しが足りない。疼いたままのそこが切なくて、頭がぼーっとしてくる。
 時谷くんも大分余裕がなくなっているようで悩ましげに眉を寄せていた。

「はぁっ……すみません。僕も自分の触ってもいいですか?」

 時谷くんがだらだらと先走りを垂らした自身を握り、懇願するような視線を向けてくる。

「そ、そんなこと」

 私に許可を求められても――
 そう思ったが、捨てられた子犬のような目で「駄目ですか?」と聞かれたら、いいよと言うしかなかった。
 すぐに時谷くんは右手で性器を扱き始める。最初から射精を急ぐように性急に擦り上げ、くちくちといやらしい音が響く。

 時谷くん、亀頭を手の平で包んでる。そういう触り方をするのが好きなのかな。
 昨晩よりずっと近い距離で時谷くんの気持ち良さそうな顔が見える。
 その光景に釘付けとなった私の息も上がっている。いつも私の反応を見て興奮している時谷くんの気持ちがわかる気がした。

「綾瀬さんも一緒にイこうね?」
「っ! あっ、時谷く、んっ!」

 私を見つめ、とろんとした瞳で微笑んだ時谷くんは陰核に舌を這わせた。
 剥き出しになっていた敏感なそこを舌で転がされる。股座に埋まった頭を抱きかかえてびくびく震える私の腰を、時谷くんの手が支えている。

 時谷くんが自身の性器を擦る手を速めるのと一緒に私への責めも激しさを増した。
 包皮の裏側を舌先でほじられ、陰核を上下左右に舌で捏ね回される。そうして柔らかい唇で挟んで、ちゅううっと恥ずかしい音をさせながら吸いつく。
 私の反応を見ながら吸う力を緩めたり強めたり。口内では舌を高速に動かして陰核に振動を送ってくる。

 こんなの刺激が強すぎる。
 激しい愛撫の連続に私の体は時谷くんとともに上り詰めていく。

「綾瀬さんっ、好き、好き……綾瀬さ、はら、んで、孕んでよ……僕のものに……っ! くっ」
「ひ、ぅ、あ、あああっ!」

 時谷くんが白濁を床に向かって放ったのとほぼ同時に私も全身を引き攣らせた。
 力の抜けた私を時谷くんが抱きとめる。
 時谷くん、果てる寸前にどんな想像をしてたんだろう?
 ……きっとろくな想像じゃないな。

「綾瀬さん、好きです」

 耳元で時谷くんの声が甘く響いた。


 その後、私は一人で体を洗った。
 時谷くんは私が落ち着くのを待ってからボディソープを手で泡立てて「じゃあ最後の仕上げしますかあ!」などと瞳を輝かせていたから全力で追い出した。

 後で犯すと事前に宣言されていたからリビングに向かう足取りは重い。
 こんなときに限ってあの新品の勝負下着を着けている自分が恨めしいが、替えのパンツはこれしかなかったのだ。
 もちろんパンツに合わせてブラジャーまでしっかり着けている。普段は就寝時にブラジャーはつけないが、時谷くんに見られることになるなら……と思ってそうしてしまった。

 私は駄目人間だな。

 ため息をつきながらリビングに入る。時谷くんはテレビの前に立っていた。
 何を見ているんだろう?
 手元に視線を落としたままピクリとも動かない背中は声を掛けにくい雰囲気をまとっている。

「時谷くん……えっ」

 躊躇いながら近寄っていくと時谷くんの手元が目に入る。
 充電していた私のスマートフォンが、ケーブルを外されて時谷くんの手にあった。

「それ私のだよ!」

 時谷くんが画面からゆっくり顔を上げる。

「そうですが何か?」

 携帯を盗み見している現場を見付かったというのに、彼には焦る様子がない。
 言い訳をしたり謝罪するどころか鋭い眼光で私を睨みつける。

「いや、勝手に見ないでよ!」
「綾瀬さんだって僕のスマホ見たじゃないですか」
「あ、あのときは理由があったから仕方なく……」
「で、"これ"になんて返信するの?」

 時谷くんはスマホを取り返そうと詰め寄る私に画面を見せてきた。

「あっ……」

 そのメッセージが届いたのは十分前。
 私が一人で入浴中の時間で、日向からだった。

『今何してる?』
『夏休み中にどっか遊び行こう! 暇な日教えてくれ〜』
『俺が選んだブラ着けてるとこ早く見せてほしいしな!笑 ピンクの勝負下着!笑』

 日向らしいおふざけだった。
 もしもここが自宅で、私一人きりだったなら、「見せないし、勝負下着じゃないから!」程度でこの話題は流していたと思う。
 そうして本題である予定のない日について、大体暇だからいつでもいい、といった旨の返事をしたのかもしれない。

「俺が選んだブラ……早く見せてほしいしな? ピンクの勝負下着?……へぇ……」

 時谷くんはもう一度画面に視線を落とし、冷ややかな声でメッセージの文面を読み上げると不愉快そうに顔を歪めた。

「いつ前山田とセックスするんですか?」
「ちっ、違う!」

 早く誤解を解かなければと焦るあまり、私は考えなしに口を開く。

「時谷くんは誤解してるよ! 日向とはそういうんじゃなくって!」

 日向おすすめの勝負下着を買ったのは事実だけれど。愛しの彼をメロメロにできると言われ、時谷くんのことを思い浮かべたのだ。
 日向に見せるためじゃないし、日向だってまさか私があの下着を本当に買ったとは思っていなかっただろう。

「こ、このラインは日向の冗談で……」

 私は時谷くんへの思いをまだ隠している。好きだと隠したまま誤解を解ける言葉が見付からなくて、わかりやすく裏返った声は我ながら嘘くさかった。

「誤解だと言うなら僕と買い物に行ったときに買った下着を見せてください。あのときに前山田と会ったんですよね? 買った下着は今どこにあるんですか?」
「…………」

 時谷くんの鋭い眼差しに萎縮して口をつぐむ。
 どうして私と日向がランジェリーショップで会ったことを知ってるんだろう。
 何とかして下着を見せずに済む方法はないものか……考えれば考えるほど、私は自然と自分の胸の膨らみを見てしまっていた。

「っ、やっ!」

 時谷くんはその視線を見逃さず、私の着ているTシャツの裾を一気にめくり上げる。

「ピンクの下着……」

 日向のラインと一致している下着の色が誤解を深める。多分もう取り返しのつかないところまで。
 時谷くんは抜け殻のように放心して見えるけれど、スマホを持つ手はぶるぶると震えていた。怒りをぶつけるように強く強く握りしめた拳が赤くなっていく。

「わ、私、日向と出掛けない。出掛けないよ」

 誘ってくれた日向には悪いけど、時谷くんに誤解されたままは嫌だった。
 日向からの誘いを断ることで時谷くんも少しは安心し、冷静に話を聞いてもらえることを期待した。

「――そう。それならお断りの返信をしないといけませんよね。僕の言う通りに送れますか?」
「なんて送ればいいの?」

 今回断っても次がある。またみんなで、それこそ時谷くんも一緒に遊びに行けたら……そう考えながら私は頷いた。

「"今まで隠してたけど時谷くんと付き合ってるんだ。前山田くんのことずっと迷惑だった。二度と連絡してこないで"……かな」

 時谷くんは感情のこもっていない声で淡々と喋る。

「なっ、そんな――」
「送れないんですか?」

 そんな内容酷過ぎると言い返す前に時谷くんは小首を傾げてみせた。
 可愛らしい仕草をしているのに彼の黒い瞳は虚ろで、暗く濁っていた。
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