Keep a secret

□こっち向いて
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 やっとのことで戻ってきた時谷くんの部屋は、電気が眩しい。極度の緊張感から解放されて、思い出したように息を吸う。
 時谷くんがドアを開けて廊下を覗いていた時間は地獄みたいに長く感じられたし、生きた心地がしなかった。
 きっと時谷くんも気が動転していたのだろう。ドアの裏側を確認せずに誰もいないと判断するなんて、平時なら有り得ないミスだ。

「はぁぁぁーっ」

 うつぶせでベッドに倒れこむ。
 すごくすごく気まずい。けど、刺激的な場面を目撃してしまった。

 時谷くん……私の名前を呼んでた。「綾瀬さん、好き」って切羽詰まった声で何度も。思い出すと嬉しくって恥ずかしくってむずがゆい。
 顔を埋めた枕のカバーからは柔軟剤の清潔な香りがする。時谷くんは何でソファーに顔を埋めてたんだろ。
 ぼんやり考えながら右手をそろそろとジャージのズボンの中に忍ばせる。

 この部屋ならドアを開けられる心配はないのだ。
 安心感が私を大胆にさせた。下着の中に手を入れて直接触ってみるとそこはもう十分過ぎるほど濡れていた。
 割れ目に沿って撫でながら膣口の位置を指で探る。膣口を見付けると少し勇気を出して中指を沈めた。

「ん……」

 動かし方がわからないから時谷くんの真似をして粘膜に擦りつけるように抜き挿しする。根元まで入れて抜くのをゆっくり繰り返していると、何となくぞくぞくとした感覚が背中を走る。
 でも、期待よりも鈍い刺激。これなら下着越しに触っていた方が気持ち良く思えて、濡れた布地を秘部に張り付けるように指を這わせる。

 私はここが時谷くんのベッドの上であり時谷くんのジャージを借りていることも忘れ、普段通りの自慰に没頭し始めた。
 達することはできなくても私にはこれくらいの刺激がちょうどいいのかもしれない。

「ん……あ……っ」

 陰核を下着の上からカリカリと爪で引っ掻いて刺激する。
 リラックスモードの私が少し大きめの声を漏らした、数秒後。
 カチャ、と不吉な音が聞こえた。金縛りにあったように動けなくなる体。

 今の、鍵の音?
 いや、まさか。この部屋の鍵は私が持っているのだ。開くはずは――

 私の思いも虚しくドアは無慈悲に開かれた。真っ暗な廊下に部屋の明かりが差して、時谷くんの姿が浮かび上がる。
 すぐに時谷くんはふらふらした足取りで近付いてくる。ジャージの中に突っ込んでいる右手をどうにかすべきなのに頭が回らない。

「と、きたにくん……」
「…………」

 私はうつぶせに寝転んだまま、ベッドの横に立った時谷くんを見上げる。私の恥態を見据える時谷くんの瞳は血に飢えた獣のようにギラギラしている。
 しばらく見つめ合った後、長い前髪を揺らして時谷くんが動く。

「はぁっ……」

 時谷くんが熱っぽい息を吐き出し、片足を乗せた重みでマットレスが少し沈む。

「な、何で!? 何で時谷くんが……っ」

 鍵の掛かったこの部屋の中には入ってこられないはずでしょ?
 混乱が収まらない私の脚がうつぶせのまま荒々しく開かれる。そして時谷くんが太ももの辺りに馬乗りになった。
 下半身に時谷くんの体重がのしかかる。私は慌てて左肘をついて上半身を起こす。
 身をよじり、抵抗しようと振り上げたもう片方の手は易々と時谷くんに捕まった。

「綾瀬さん……」

 ひねり上げられている私の右手は、照明の下でてらてらと光っていた。

「ひぃっ!」

 右手が濡れていたことを思い出して短い悲鳴を上げる。時谷くんは美術品を鑑賞するかのように様々な角度から私の右手を眺め、目を細めた。

「や、やめて……っ」
「安心してください。綾瀬さんが僕のベッドでオナニーしてたことは誰にも言いません。二人だけの秘密です。だって僕達、友達……でしょ?」
「そ、そうじゃなくて!」

 時谷くんが言い触らして回るとは思っていない。そんなことよりも単純に今この時間が恥ずかしくて。それに、時谷くんが私の上に乗っかっていることが問題だ。

「リラックスしていてくださいね」
「あっ!? だ、駄目!」

 ジャージを下着ごと一気に足首までずり下げられる。

「やっ!」

 時谷くんの指先はお尻をやんわり撫でた後、秘裂に辿り着く。緊張で体が強張る。
 濡れて膜を張っている秘裂の表面を撫でられればピチャピチャと水溜まりを叩くようないやらしい音がする。
 やがて指先が膣口を捉えた。期待でヒクついていたそこは、さほど抵抗なく時谷くんの中指を飲み込んでいった。

「すごい……自分で指を入れてシてたんですか?」
「そ、そんなこと……っ」
「へぇ。否定するんですね。でも、綾瀬さんの指――」

 時谷くんが私の右手に唇を寄せる。薄く開いた唇から赤い舌が覗く。見せ付けるようにチロリと出された舌が中指の付け根から指先まで舐め上げ、ぬるりとした感触がそのまま指全体を包む。

「とっへもおいひいよ?」
「っ!」

 時谷くんが私の指に吸い付きながらとろけたような瞳で微笑んだ。
 彼が甘いキャンディーを味わうみたいに舌で転がしているのはついさっきまで膣に挿入していた私の指だ。その至福そうな表情に、頬が熱くなる。

「はぁっ……おいし。綾瀬さん。僕に中を撫でられたとき気持ち良かったから自分でも試してみようと思ったの?」
「ち、違……っ、ひゃっ!」

 私の中で時谷くんの指がくっと曲げられ、揺らされる。自分で触るのと時谷くんが触るのでは感じ方が全然違う。内側はジンジンと熱を持って指を締め付けた。

「それなら勝手に解れてとろとろになったってことですか? 綾瀬さんのここ、随分エッチなんですね」
「ちっ、ちが、う……」

 こんな……死ぬほど恥ずかしいことを正直に認めたくない。
 私は起こしていた上半身をシーツに沈めて、枕に顔を埋める。解放された右手が時谷くんの唾液で燃えるように熱い。
 ああもう、理不尽だ。時谷くんが先にオナニーをしてたのに私だけこんな辱めを受ける羽目になるなんて。

「恥ずかしがることないですよ。僕達、友達でしょ。だから……ね? 僕が綾瀬さんのオナニーのお手伝いをしてあげます」
「うぅー……っ」

 何がどうなって「ね?」に繋がるのか理解できない。枕に押し付けて声を抑えながら必死で首を横に振る。

「たくさん仲良く……しようね?」
「……っ」

 それでも時谷くんは頭上から囁いて、本格的に私の体を責め始めた。
 くの字に曲げた中指がお尻側の内壁を抉りながら出入りし、残りの四本の指がアナル周辺の際どい場所をくすぐるように撫でる。うつぶせの状態で秘部を弄られるといつもとは違うところに指が当たる。

 びくびく震えながら枕を抱きしめ、快楽に耐える。
 声を聞かれたくない。顔を見られたくない。でも、どうしても息苦しくて、顔をこてんと横に向けて酸素を吸う。

「綾瀬さん、気持ち良い? そろそろイキましょうか?」
「ふぁっ! あっ、あっ!」

 膣内で時谷くんの中指がぐるんと回転した。そうして彼の指はお腹側の弱い場所に狙いを定めて擦り上げてくる。
 呼吸と共に漏れる声をもう抑えられなかった。

「ふふ……僕達とっても仲良しですね。綾瀬さんのここも喜んでくれてるみたいです」

 ぐちゅぐちゅといやらしい音を立てて掻き混ぜられる膣口。愛液がとぷとぷ溢れ出てお漏らししたみたいな染みがシーツにできる。
 人差し指まで増やされ、二本の指で集中的に責められて確実に絶頂が近付いていた。

「も、やめ……わ、私達は友達で……っ」
「綾瀬さん、大丈夫。これはいやらしいことなんかじゃないんです……そう、ただ仲良くしてるだけだよ」
「な、なに言――やっ、ああっ!」

 時谷くんの指が私の弱点を容赦なく刺激し続ける。

「んっ、んっ、あ、あぁ……っ」

 私は与えられる強烈な快楽に負け、歓喜の声が止まらない。

「わぁっ、綾瀬さんの中、僕の指をきゅうきゅう締めつけてきます」
「あ……っ、やぁっ」

 自分の指とは違う形を確かめるように私の内側の粘膜は時谷くんの指をきつく包んで、緩めてを繰り返す。意識すると余計に力が入って指を締め付けてしまう。

「綾瀬さんのここは物分かりが良いですね。一人でするより僕に手伝ってもらった方が気持ち良くなれるって、ちゃんとわかってるんだ」
「んん……あ……っ」

 時谷くんの二本の指がGスポットをぐっぐっと押し上げる。外側からはぷくりと膨れた陰核を親指で責め立てられていた。
 敏感な性感帯を同時に刺激され、無理矢理に快感を高められるのも限界だった。

「いつか綾瀬さんの方から僕を求めてほしいな……」
「あ――っ!!」

 ぽっかりと口を開けた私の声にならない声が、時谷くんの言葉を遮る。つま先まで脚をピンと伸ばし、太ももを固く閉じて時谷くんの手を挟みながら達した。

「はぁ……はぁ……」

 全身の力がふっと抜ける。痙攣を続ける内側で時谷くんの指の存在を感じた。
 私の呼吸が整うのを待たずに、時谷くんは膣内を広げるように二本の指を開きながらゆっくりと引き抜いた。

「体勢を変えてください。仰向けになって」
「んん……」

 一息つく暇もない。ぐったりしている肩をしつこく揺らされて、私は言われるままに寝転がった。

「ねぇ、綾瀬さん。僕と仲良くするの嫌ですか……?」

 足元から切なげな声が聞こえる。
 仲良く仲良くって、時谷くんはさっきから何を言ってるんだろう。

「嫌じゃ、ないよ……」

 ぼーっと天井の一点を見上げながら答えた。

「ふふっ、嬉しい。綾瀬さんも許可してくれたことですし……もっと深く繋がりましょうね?」
「えっ?」

 時谷くんの行動は素早かった。私の脚を大きく開き、太ももを両脇に抱える。そうして指とは比べものにならない大きさのものが膣口にあてがわれればさすがに目も覚める。
 慌てて天井から足元に視線を移す。時谷くんは駄目押しとばかりに「仲良くしようね?」とにっこり笑った。

「ん……っ!」

 太ももを抱え直し、時谷くんが腰を沈めていく。固い性器の先端が膣口を割って私の中に押し入ってくる。体の内側をじわじわと拡げられていく苦しさに息を呑んだ。

「はぁっ、奥まで入った……動きますね……っ」
「ふぁっ、んっ」

 中が熱い。どくんどくんと脈打つ時谷くんの存在を感じる。
 時谷くんは馴染むのを待ってからゆっくりと律動を開始する。イッたばかりで過敏になっている内壁を擦りあげられると甘く痺れる感覚が走った。

「上も脱いで……っ、バンザイしてください」
「あっ、だ、駄目!」

 荒々しく裾を引っ張られ、もつれ合ううちにTシャツを脱がされる。時谷くんは腰の動きをいったん止めて、露出した私の上半身に視線を落とす。

「今日買った下着は着けてないんですね……」

 時谷くんがぽつりと呟く。残念そうに言うものだから、あの下着を着けておけばよかったな……なんて私は愚かにも思ってしまう。
 しかし、今はそれどころじゃない。時谷くんの体温を感じている内側がじんじん疼く。我慢できずに腰を揺らしてしまいそうだ。

 ――早く。早く動いて。
 口が裂けても言えない欲求が膨れ上がる。

「ん……」

 時谷くんはブラジャーの上から乳房をやわやわと揉んで持ち上げる。優しく触れる手が心地良くて、私は目を閉じた。

「っあ……待っ」

 少し油断した隙に下着までも手早く剥ぎ取られる。これで私の肌を隠すものはついに何もなくなってしまった。

「はぁはぁっ、綺麗ですね」
「い、いや……ひぁっ、あっ」

 興奮した様子の時谷くんが私の中から性器を引き抜くと、もう一度浅く挿入し、小刻みにピストンし始めた。亀頭が引っ掛かって膣口がめくれあがるのが気持ち良い。

「綾瀬さん……っ」

 私は揺さぶられながら、性急に腰を振る彼を見上げた。
 時谷くんはズボンを軽くずらしているだけで、服を一枚も脱いでいない。またこの状況。私だけが肌を晒して体を重ねている。
 言いようのない恥ずかしさに襲われて、私は両手で顔を覆う。

「ん……隠さないで。綾瀬さんの顔が見たいんです。綾瀬さんも、ほら……僕の顔を見て?」
「っ! あっ……やっ」

 手は強引に引き剥がされ、浅い位置を突いていたピストン運動は膣の最奥に向かって刺すような動きへと変わる。私はせめてもの抵抗として目を閉じて嫌々と首を振った。

「はぁはぁっ、綾瀬さん、お願い。こっち向いて……っ、ねぇ、僕のイク時の顔、見てて……」
「ひゃっ」

 耳たぶに柔らかい感触がして。熱っぽく囁かれた言葉に唾を飲み込む。

「ん……綾瀬さ……っ」

 時谷くんは腰の動きを早めながら、耳元で声を漏らし続ける。私と時谷くんが混じり合う淫らな水音と、時谷くんの甘い声が脳を揺らしている。

「あっ……も、イク……っ」
「っ!」

 余裕のない言葉と共に、時谷くんの気配が耳元を離れていく。
 私はとっさに目を開けた。真上から私を見下ろしていた時谷くんと目が合う。
 彼はすぐに意地悪そうに笑った。

「はぁっ……綾瀬さんのエッチ。僕が綾瀬さんの中で気持ち良くなってイクところ見たいんだ? 見せてあげる。見てて……っくださいね……っ」
「んっはっ、あっあっ!」

 角度を変えて何度も何度も奥まで貫かれ、ピリピリ痺れるような快楽を与えられる。
 エッチだと言われるのは心外だけれど、時谷くんのイキ顔を見たいと思ってしまったのもまた事実で。落ちてくるまぶたを必死で開いて時谷くんを見つめる。

「綾瀬さ、んっ、好き、です……っ」

 時谷くんは本能のままに激しく腰を打ち付ける。とろけきった顔は、私の中が気持ち良いと全力で訴えていた。

「っんああ……っ!!」

 私は最奥を突かれる衝撃で達する。

「綾瀬さん……っ、んんっ」

 時谷くんは歯を食い縛って性器を引き抜き、私のお腹の上に吐精する。
 達した瞬間の、唇の端から漏れる声。汗で湿った髪。上気した頬。切なげに眉根を寄せた表情。全てが綺麗で色っぽくて、私は時谷くんから目が離せなかった。


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