Keep a secret

□もしもばなし
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11月11日ネタ

ポッキーゲーム



「綾瀬さん……ん。」
「うぅ……」

 今日はポッキーの日だ。「僕甘い物は苦手なので綾瀬さんから攻めてきてくださいね?」そう、時谷くんが意地悪な笑みを浮かべながらポッキーのプレッツェル部分をくわえたのは一分ほど前のこと。
 勇気を振り絞り、私もやっとポッキーの反対側をくわえるところまでこぎつけたけれど、そこまでで限界だった。
 時谷くんとの間にポッキー一本分、十センチくらいの距離しかないのだ。伏せられたまつ毛長いなぁとか、間近で見てもきめ細やかな肌だなぁとか、髪サラサラだなぁとか、余計なことばかり考えてしまって息もできない。これ以上動けるはずがなかった。
 しかし眼前の綺麗な顔は私がポッキーを食べ進めていくことを期待している。長いまつ毛が揺れて、薄く開かれた目と視線が合った。

「チョコ溶けちゃいますよ?」
「っ!」

 至近距離で微笑まれるのは心臓に悪い。ポッキーを噛んでいる歯に思わず力が入った。

「あっ、もう……綾瀬さんの下手っぴ。やり直しですよ。まだまだいっぱいありますから。成功するまで何度でもしましょうね?」

 一袋、いや一箱何本入りだろう。そして、ポッキーゲームというものは何をもって成功したと言えるのか……考えると気が遠くなる。私はうなだれながら「はい」と返事をし、口の中の甘い一欠片を飲み込んだ。




プリッツゲーム



 自身が主導権を握るポッキーゲームを恥ずかしがっている綾瀬さんの反応を十分堪能できたから、次は俺の番。ポッキーで続けても別によかったのだが「プリッツなら僕からも大胆にいけます!」と宣言してみせることで綾瀬さんは早くも顔を赤くしている。なんて可愛い人だろう。

「綾瀬さん、あーん」
「う、ん……」

 遠慮がちに開かれた綾瀬さんの唇にプリッツの先端を噛ませて、もう片側を自分がくわえる。ぐっと近付いた綾瀬さんとの距離。
 プリッツゲームのため。理由があるから嫌がられずに近付ける。目の前の綾瀬さんから目を離すなんてもったいない。そう考える俺とは対照的に綾瀬さんの視線は左右に忙しく動いて落ち着きがなかった。

「逸らさないでください」

 逃げ腰の綾瀬さんの首に手を回して強引に引き寄せる。それと同時に素早くプリッツを食べ進めれば、綾瀬さんが俺の言葉に反して固く目をつぶる。
 綾瀬さんとの距離はもう一センチもない。目なんか閉じていいんですか?キスしてもいい宣言と捉えるけど――
ポキッ、軽い音を立てて残り少なかったプリッツが折れた。ゼロ距離での綾瀬さんはちょっと刺激が強すぎる。「可愛いからこれで許してあげます」と余裕ぶっておいたけど、単に力が入ってしまっただけだった。
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