Keep a secret

□もしもばなし
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〜もしも時谷くんがストラップをもらったら〜


「これ……時谷くんに渡したくて!」

 綾瀬さんはカバンからストラップを取り出すと俺の顔の前に突き出した。最近流行ってるきのこのキャラクターのストラップだ。俺には男性器の隠喩のような卑猥なキャラだとしか思えない。
綾瀬さんはこのキャラクターのシャーペンとかも持っていたからこのキャラが好きなんだろうな。それなら男性器のような猥褻きのこでも褒めるしかない。

「よかったらどうぞ。私とお揃い…って、嫌だよね!ごめん!」
「お、お揃いのストラップですか!?ほしいです!一生大切にします。お願いします!」
「う、うん。どうぞ」

 あぁ、必死になり過ぎた。綾瀬さんは愛想笑いを浮かべて少し引いていた。俺は感慨深い気持ちでいっぱいになりながらもらったストラップに視線を落とす。
 この猥褻きのこ……愛嬌のある顔してて案外可愛いじゃないか。憎めない感じで癒し系かもしれない。これから俺もこのキャラのグッズ集めようかな。

「これ可愛いよね。携帯に付けようっと!」
「……あ、僕もそうします」

 綾瀬さんの真似をして俺も携帯にストラップを付けた。ただストラップが増えただけなのに見違えるほどに魅力的になった気がする。今まで適当に扱ってきたけどこれからはストラップのためにも大切にしよう。
 あっさりストラップを付け終えた俺と違い、綾瀬さんは苦戦していた。綾瀬さんの携帯には別のストラップが一年以上前から付いているからだ。その姿を見て胸がチクリと痛む。

 色褪せた古いストラップなんか捨ててしまえばいいのに。高橋さんとお揃いのストラップだから綾瀬さんの大切な宝物だ。
 どんなにボロボロになっても綾瀬さんの一番身近な定位置から動くことはないんだろうね。なんだか高橋さんの存在そのものみたいで煩わしい。
 だから俺は酷いことを思う。高橋さんとお揃いのストラップはちぎれて無くなってしまえ。そしてどんなに探しても見付からなければいいって。

「僕に貸してください。付けてあげます」
「本当?よろしくね!」

 俺がこんなに酷いことを考えているとも知らないで綾瀬さんは嬉しそうに携帯を渡す。警戒心のない綾瀬さんの目の前で宝物のストラップを無残にも引きちぎり、俺とお揃いのストラップを付けてやろうか。
 ……なんてことを実際に出来るはずもなく、古いストラップがちぎれないよう細心の注意を払いながら付けてあげたのだった。
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