Keep a secret

□もしもばなし
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〜もしも時谷くんが女装させられたら〜


「薫、これどう思う?うちのブランドで展開していく予定のエロかわコスプレシリーズの試作品なんだけど!こういうの着てもらったら興奮する?」

学校から帰宅した俺を出迎えたのはハンガーラックに掛けられた大量の変態コスプレ衣装と、楽しげな母さんだった。
アダルトショップに置くような物を息子に見せ、意見を求めてこないでほしい。
これから綾瀬さんが家に遊びに来る予定なのに母さんが帰っていて、更にリビングがこの惨状では困る。
目の前に突き出された一目でわかるチープなヘソ出しのセーラー服とスリットの入ったナース服に眉をしかめながら仕方なく口を開いた。

「生地がペラペラ。全体的に安っぽすぎ」
「やっぱり?安価な値段で提供しようと思ったら生地にこだわれなくてね……デザインの方はどう?結構自信あるのよ」
「知らない。さっさと撤去してよ」
「んー…あっ、そうだ。実際に着てみたら印象変わるかも!」
「はあ?やだよ。母さんのコスプレ姿なんて見たくない。気色悪い」
「大丈夫大丈夫。着るのは私じゃないから、ねっ?」
「…………」

嫌な予感がしてさりげなくリビングのドアの方へ一歩踏み出すと、母さんが先回りしてドアの前に立ちはだかった。
そのまま妙に笑顔の母さんがじりじりと距離を詰めてくる。
本能が危険信号を送っていた。このままではまずい。すぐにここから逃げるんだ、と――


「さっすが私の子供ね!その辺の女の子よりよっぽど可愛い!」
「…………」

最悪だ。本当に最悪だ。
迫力に押されて逃げ切れず、まあまあいいからいいから…なんてなだめられている内にヘソ出しのセーラー服を着せられてしまった。
ただでさえ短いスカートを男の俺がはいたせいで裾から下着が見え隠れしているし、なんだか足元がスースーして落ち着かない。女性っていつもこんな心許ない物に身を包んでいたのか。

「いやー身長高めの女性が着たらどんな感じになるのか気になってたから助かるー。えーと、スカートの丈がこれくらい短いのは全然有りでしょ。薫の肩幅でも余裕があるから多少がっしりした女性でも大丈夫そうだね」

母さんは完全に仕事モードで俺の頭から爪先までを眺めながらぶつぶつ言っている。
足元にしゃがみこんだ母さんの視線から逃れるように俺は背を向け、下着が見えているスカートの裾を引っ張った。

「も、もういいだろ。着替えてくるから」
「そうだね。じゃあ次いってみよっか?」
「!……いっ、嫌だぁぁ…っ!!」

鬼のような母は楽しげな様子でナース服を掲げる。俺は思わず情けない声を上げた。

「こらー!観念しなさい薫!」
「く、来るなぁ!」

服を脱がそうとブラウスやスカートを引っ張ってくる母さんの手を振り払いながら、ソファーの周りをぐるぐる回って逃げ惑う。

バンッ
ソファーを何周かしたとき、リビングのドアが大きな音を立てて開け放たれた。

「時谷くん!何かあったの!?」
「っ!」

同時にリビングに飛び込んできたのは、今だけは一番会いたくない人だった。

「え、セーラー服?かっ、可愛いい!本物の女の子みたいだね!あ……でもどうしてコスプレなんてしてるの?」
「ご、誤解しないでください。これは母さんが無理矢理…!って、いない…!」

元凶の母さんは綾瀬さん乱入のどさくさに紛れていなくなっていた。
リビングに残されたのは大量の変態コスプレ衣装とセーラー服を着た俺のみ……更に俺の手には、さっき母さんが持っていたナース服がいつのまにか握らされている。

「次はそのナース服を着るの?」
「い、いえ!これも母さんが勝手に……」
「楽しみだなぁ!絶対似合うよ!」
「だ、だからあの」
「あっ、その前に一緒に写真撮ってくれないかな?時谷くんすっごく可愛いから待ち受けにしたいんだ!」

綾瀬さんは瞳をキラキラ輝かせて俺に詰め寄ってくる。
駄目、だ。どんなわがままだって叶えてあげたくなってしまうこの瞳から逃げる術を俺は知らない。


08.04 ネタ提供 心紅様
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