Keep a secret

□もしもばなし
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〜もしも時谷くんがオレオレ詐欺にあったら〜


休日の昼下がり、普段は静かな俺の携帯が鳴った。
少し期待しながら画面を見ると、電話帳に登録していない番号からの電話だった。まあ、電話帳には綾瀬さんと両親の連絡先しか登録していないのだが。

「はい」
「あ、もしもし?オレオレ!久しぶりだな」
「……どちら様ですか?」
「だからオレだよ。オレオレ!忘れちゃったのか?冷たいなぁ。当ててくれよ」
「もしかして父さん?」
「おう!悪いな。携帯の番号変えたことお前に連絡するの忘れてたんだよ」

父さん、なんか声が若返ったような?それに雰囲気も変わったか?でも元からこんな声だったような気もするし…と、俺は首を傾げてしまう。
父さんと最後に会ったのは大分前だ。母さんからはたまに電話がかかってくるから話すこともあるけど、父さんはその際に電話の向こうで母さんと話す声が少し聞こえてくる程度だった。
一緒に住んでいた頃も俺は部屋に閉じこもって嫌悪するあの人達との会話を避けてきたし、あまり父さんの声を覚えていなかった。
多少の違和感はあったが、まあ久しぶりに聞いたからだろうと納得した。

「用件はそれだけ?」
「……父さん、お前に大切な話があるんだよ。実は肺を悪くしててな。このままだと長くはもたないらしい」
「そう。お気の毒に。母さん、父さんが死んだ後に男作るかな?まともな人だといいんだけど……」
「え?い、いや、手術すれば助かるんだ。だけどそのための金が少しばかり足りないんだよ。お前に援助してもらえないかと思って……」
「俺に…?今月必要な生活費の分を除くと、今までの生活費の残りで十万くらいなら口座にあると思うけど……」
「それでいい!それだけあれば足りる!その十万をこれから言う口座に振り込んでくれ。今すぐに頼む!」

父さんは早口に口座番号を伝えると、命がかかってるんだ急いでくれと念押ししてから電話を切った。
あんな人でも一応親だから、俺は傍目にわからない程度には父さんの病気にショックを受けたのかもしれない。
ホームに戻った携帯の画面をそのままぼんやりと見つめる。自動更新されるネットニュースの中に「特集!最新のオレオレ詐欺の手口とその対策」という記事があった。

「…………」

確認のために「元気?」と一言だけメールを送ると、すぐさま電話がかかってきた。電話帳の登録名である「父」という味気ない一文字が画面に表示されている。
簡単にくたばるような人じゃなかったか。
俺は本物の父さんからの電話を無視して、話題ができたことを嬉しく思いながら綾瀬さんに電話をかけた。

母さんに聞かされて、久しぶりの息子からのメールに父さんがぬか喜びしていたと俺が知ることになるのはまた後の話だ。


2016.06.25
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