Keep a secret

□もしもばなし
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〜もしも時谷くんが「魔法少年になってよ」と言われたら〜


「時谷くん、時谷くん。魔法少年になってよ!」
「……はい?」

突然の高橋ゆかさんの言葉に、俺は一言聞き返すのがやっとだった。

「なってくれるんだね。ありがとう」
「い、いえ、そんなこと言ってな」
「私ね!今まで黙ってたけど魔法少年のサポート妖精ゆかりんなの。地球を救ってくれる男の子をずっと探してたんだ。この衣装が似合う男の子は時谷くんしかいないよ。さあ、魔法少年まじかる☆かおるんに変身しよう!」

高橋さんがハート型のおもちゃのステッキを振ると、セーラー服モチーフでヒラヒラふりふりした悪趣味なピンク色の衣装の写真が空中に映し出された。
軽くめまいがする。死んでも着たくないと思った。

「いっ、嫌だよ!なんですかまじかるかおるんって。気持ち悪い!」
「そんなこと言ってていいのかなぁ。私の親友であり時谷くんの大切なあの子が今ピンチなのに魔法少年になってくれないの?」
「綾瀬さんが!?」

俺がようやく反論すると、高橋さんはあからさまにため息をついてみせた。
綾瀬さんがピンチだなんて、なぜその最重要情報を一番に伝えてくれなかったんだ。
迷っている暇はなかった。とにかく時間が惜しい。

「僕、なります。魔法少年に。どうやって変身すればいいですか?」
「話が早くて助かるよ。まず、この魔法のステッキにキスをしてからこう言うの」

サポート妖精ゆかりんさんが変身の言葉を耳打ちする。
世界なんてどうでもいいが、綾瀬さんだけは必ず俺が守るんだ。
受け取ったハートのステッキに誓いのキスをして、俺は心を無にした。

「魔法少年まじかるみらくるかおるん……みんなにハッピーな魔法を届けるんるん……あれ、変身出来てない?」
「棒読み過ぎるんだもん。そんなんじゃ世界は救えないんだから。もっと大きな声で!気持ちを込めてハッピーに!」
「……魔法少年まじかるみらくるかおるん!みんなにハッピーな魔法を届けるんるん…!」

俺は半ばやけくそ気味に変身の言葉を叫ぶ。それでも俺の体には何の変化も起こらない。

「もっと可愛らしく、笑顔で。ポーズもつけて!」
「ま、魔法少年まじかる☆みらくる☆かおるん!みーんなにハッピーな魔法を届けるんるん!」
「ポーズが小さいよ。もっとダイナミックに!」
「まっ、魔法少年――」


「っ!……はぁっ、はぁっ……」

目が覚めると、全身汗だくで息は切れ切れだった。
おかしな夢を見てしまった。世界を救うなんてどう考えても俺には向いていない。
布団の中で安堵のため息をついた。


2016.06.23
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