Keep a secret

□もしもばなし
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〜もしも時谷くんの目の前で目当ての物が売り切れたら〜


ケーキ屋ってどうしてこうもキラキラしているんだろうか。
いかにも女性が好みそうな店内の可愛らしいディスプレイに、商品をより魅力的に見せるための明るすぎる照明、そして見るからに甘ったるい色とりどりのケーキやお菓子達。
俺にはなんかもう全体的に合わないこの空間で、本日のおすすめである苺のタルトとミルクレープのどちらを買うか悩むこと数分……ついにミルクレープに決めた。
ミルクレープには苺と黄桃とみかんが入っているという説明書きがあったからだ。苺も味わえるならこっちの方がお得かなと安直に思った。

俺は店員さんの前に立った。ショーケースの中に3個並ぶミルクレープを確認し、綾瀬さんの喜ぶ姿を想像してつい緩みそうになる顔を引き締める。

「あの、すみませ」
「ミルクレープ3つください!」
「ありがとうございます。持ち歩き時間はどれくらいになりますか?」

隣でケーキを眺めていた女性と俺の声が被さる。店員さんは明確に簡潔に告げられた女性の注文に応じてミルクレープ3個を箱に詰めながら俺に向き直った。

「お客様はお決まりでしょうか?」

ケース内のミルクレープの場所にすかさず置かれた完売の案内と、店員さんのにこやかな笑顔。甘いものだらけのキラキラした店内。視線が泳ぐ。

「じゃ、じゃあ苺タルトで」


2016.06.23
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