創作夢

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 星降る夜に、愛をこめて祈った。今頃きっと同じ空を見上げている大好きなあなたの願いごとが叶いますように、と――


 今日も極当たり前に朝はやって来て、極普通に目を覚ます。
 しかし、何かがいつもと違っていた。体を起こしてすぐに下半身の違和感に気付く。何か無視できないむず痒い感覚があって、自然にその場所へ手を伸ばす。すると、何か固い物が手に当たる感触がして血の気が引いた。
 その"何か"は、下着ごとパジャマのズボンを下ろしたら勢いよく顔を出した。重力に逆らい起立している立派な男性器だ。

「な、なっ、なにこれええっ!?」

 極平凡な私の身に突如として起こっていた極稀な出来事、究極に異常な何か……いや、生えていた異常な"ナニ"か――

 ひとしきり叫んだ後、少しだけ冷静になる。ある朝起きたら男性器が生えてた?バカバカしい。一先ず深呼吸をしよう。

「すぅ……はぁ……」

 ゆっくりと息を吸って吐いて、呼吸を整えるうちに気持ちも落ち着いてきた。きっと寝ぼけて見間違えたのだろう、と下半身に改めて目を向ける。だらだらと滴を垂らす醜悪で凶悪な性器が視界に入った。
 ……そんなバカな。ありえないって。まさかね、と思いながらもう一度薄目で確認してみるが、

「あぁぁあっ!やっぱりおちんちん生えてるよおおおお!」

 二度見、三度見しても結果は変わらなかった。その凶悪なブツは確かに私の股ぐらに鎮座している。私はこの信じられない事態にベッドの上を転げ回りながら思いのままに絶叫するしかなかった。


 暫くそうした後、はたと気付く。こんなことで時間を浪費している場合じゃない。私は速やかに現状を把握する必要がある。なにせこれから彼氏の湊とデートの予定なのだ。
 メイク用の鏡を布団の上にセッティングし、下半身の様子を鏡に映すために脚を大きくM字に開く。とてつもない羞恥に襲われながらも鏡を覗きこんだ……瞬間、部屋のドアが勢いよく開かれた。

「天音せんぱーい!鍵が開いてたので入らせてもらいました!待ちきれなくて迎えに――!?」

 噂をすればなんとやら。湊はデート前特有の浮かれた調子で現れた。
 まだ待ち合わせの時間まで二時間もある。待ちきれないからって早すぎる。だけど、私の彼氏である湊は待ち合わせの二時間前に勝手に家まで迎えにくるタイプなのだ。
 以前遠出をするからと朝七時に約束した時はさすがに空気を読んでくれると信じていた。が、湊は早朝五時にやって来た。「先輩とこんな早い時間から会えるなんて嬉しいです」と微笑みながら。

 つまるところめんどくさい奴で、私はそんな湊が好きだった。
 普段は私も約束の二時間前を意識して準備を済ませておくのだが、今朝は衝撃的な出来事に気をとられて湊のその癖を失念していたのだ。

「み、みなと……?」

 湊は拳を握りしめて、わなわなと震えながらこちらに近付いてくる。
 他の誰よりこの体を見られたくない、世界で一番隠しておきたかった相手を前にしているというのに……私の体は硬直状態で、見せ付けるように開いた脚を閉じることも忘れていた。

「天音先輩、ごめんなさい!」

 ごめんなさい――深々と下げられた頭を見ながら絶望する。ナイフみたいに鋭く残酷な一言が私の胸を抉った。
 突然生えてきた原因不明のナニのせいで大好きな人に振られたのだ。私の悲しみを察してかナニもしょんぼりとうなだれている。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っ!」
「も、もうわかったから……仕方ないよ」

 湊は今にも泣き出しそうな顔で何度も同じ言葉を口にするが、正直私の方が泣きたい。
 でも、湊が私と付き合っていくのは無理だという気持ちも理解できた。私の体はどう見てもおかしなことになっている。幻滅されたとしても仕方がない。

「……天音先輩がそんな体になったの、僕のせいなんです……」
「はあ……?」

 湊が真剣な表情で不思議なことを話し始めるから、気の抜けた声が出た。
 湊にどんな特殊能力があったら私の体をこんなに出来るっていうんだ?あり得ないだろう。
 突拍子もない言葉に金縛りが解けた。そこで私はようやく布団で下半身を隠すと、困惑しながら湊を見つめた。

「実は僕……昨日の夜、流れ星に……」
「……流れ星に?」

 ゴクリと唾を飲み込んで、湊の言葉の続きを待つ。

「っ、天音先輩にちんこを生やしてくださいって願ったんです……!」
「っ!?」

 それは予想だにしない願い事だった。言葉を失い、呆然と見上げることしかできない頭に「ごめんなさい」と再び連呼を始めた湊の声が響く。その必死な様子から冗談のつもりで言っているのではないと思った。
 流れ星というのは昨夜見ることが出来たヤンデル座流星群のことを指しているのだろう。
 昨日ヤンデル座について先生が話していた。ヤンデル座で最も明るい恒星のドリーム星と、二番目のツンデレ星と、三番目のヤンデレ星の伝説だ。

 ヤンデレ星とドリーム星は恋人同士だった。だけど、ツンデレ星がドリーム星への秘めた思いを打ち明ける。ドリーム星は、根暗で嫉妬深いヤンデレ星よりもシャイだけどたまに優しいツンデレ星を選んだ。
 そうして夜空を見上げれば、隣同士で幸せに光っているドリーム星とツンデレ星を観測することが出来る。

 だが、しかし……この伝説には続きがある。
 ツンデレ星は寿命が近付いている。ドリーム星を残して超新星爆発で消えてしまうのだ。ヤンデレ星はその時が来たら傷心のドリーム星に近付き復縁しようと狙っている。
 ヤンデレ星は何億年もドリーム星を思いながら、ヤンデル座の端っこで一人寂しく光っているのだ。いつかドリーム星を手に入れる、それだけを生きがいにして……。

 この伝説を湊も知っていた。「ヤンデレ星の執着って引くよね」と私が何気なくこぼした後の湊は鬼気迫るものがあった。
 「先輩はヤンデレの気持ちを理解して、受け入れてあげるべきです」などと力説し始めたのだ。ただのストーカーだと私は思うけど、湊は純愛であると主張している。


「天音先輩……怒ってますか?」

 同じ言葉を繰り返していた湊が私の機嫌を窺うようにベッドの脇にしゃがみこむ。その声で宇宙の彼方へと飛んでいた私の意識が現実に戻ってきた。
 昨日の帰り際、湊は流れ星を見たら願いごとをしたいと言っていた。だから私は湊の願いが叶いますようにと流れ星に祈ったのだ。

 湊のお願いごとってなんだろう?「ずーっと天音先輩と一緒にいられますように」とかだったらどうしよう。やだ!私ってば何考えてるの!……なんて、昨夜の私は夢見る乙女モードだった。
 それがどうだ。湊の願いは、私にちんこを生やせなんて大迷惑なものだった。しかもその非現実的な願いは見事に叶ったのだ。
 信じられないけれどこれは現実で、私が怒っているかどうかなんて答えは簡単だ――


「……ぜーんぜん怒ってないよ?素敵なプレゼントをありがとう」
「ほ、本当ですか?」

 湊の表情はぱあっと明るくなっていく。私も張り付けた笑顔で言葉を続ける。

「もちろんだよ。今から私、ツンデレの可愛い女の子をナンパして童貞卒業してくるね」
「……え?」

 ちょっとしたお仕置きのつもりだった。別れたいわけではなく私のことをまだ好きみたいだから、嫉妬深い湊には堪えるはずだ。
 湊は私の人生を狂わせたんだからこれくらい意地悪言ったってよかろう。

「……ゃ……だ……」
「……湊?」

 輝いていた瞳がどろりと暗い色に染まり、湊の雰囲気が一変したのがわかった。湊がベッドに片脚を乗せると湊の分の体重でマットレスが沈んだ。

「天音先輩は僕以外とセックスがしたいんですか?」
「え?いや……」

 セックスなんて直接的な言葉を投げられても困る。童貞を捨てるなんて発言はちょっとしたお仕置きであり、冗談だ。

「……僕は嫌です。天音先輩が僕以外とセックスしたら……嫌……なんです……!」
「ちょ、ちょっと湊?どうしたの?」

 ベッドの上で湊が四つん這いになって私との距離を詰めてくる。湊が動く度にギシギシと鈍い音が鳴る。興奮した様子で肩を掴まれ、いよいよ私は危機感を覚えた。

「嫌だ嫌だ嫌だっ!!天音先輩をツンデレなんかに渡したくない……!」
「や……っ!?」

 そのまま後ろへ押し倒されて、湊は布団越しに私の下腹部の上に馬乗りになる。体重の加減をしているのか、さほど苦しくはないけれど抜け出すことは出来そうになかった。

「先輩の処女も童貞も僕だけのものです!他の誰にも渡さない」
「わ、わかったから!どいてよ……っ」

 湊は真剣な表情をしながら腰をゆさゆさ動かすのだ。下腹部の上で腰を揺らされるとその振動で剥き出しの性器が布団と擦れてしまう。
 私に生えた男性器は、そんな軽い摩擦による刺激でも浅ましく反応を見せている。

「あはっ!先輩のおちんちんもうギンギンに勃起してますよ。我慢汁だらだら垂らして淫乱だなぁ……」
「ち、違う……」

 湊が一瞬だけ腰を上げる。軽くなったと思ったら、私の体を隠す命綱のような布団は剥ぎ取られていた。完全に勃起した性器に興味深そうな視線が浴びせられる。
 まだ見慣れないそれが熱を持っている。体中の血液が集まり、どくりどくりと脈打っているような感覚だった。

「あっ、このおちんちんは生えてきたわけではないのかも。クリトリスが肥大化したんですね」
「え!?ほ、本当だ。私のなくなっちゃった……」

 上半身を起こすと、羞恥心も忘れて自分のそこを覗き込んだ。
 本来なら女性器の上部にあるはずの陰核がない。このブツは陰核から陰茎にレベルアップしたものらしい。
 ……なんてことはどうだっていい。私からしたら生えたも同然だ。問題はそこじゃない。

「と、とにかく退いて!」
「よかったじゃないですか。睾丸がないから男くさくならないですよ」
「はっ……お腹……っ苦し……!」

 湊は上から退かそうともがく私を再び押し倒すと、下腹部に体重をかけて座り直した。確かに男性ホルモンが作られないことはせめてもの救いだけど……男性器にしか見えない陰核だなんて困る。

「まさかクリトリスがこんなに立派になるなんてね……ズル剥けでカリ太で僕より大きいかも。きっと僕が毎日のようにクリちゃんをチューチュー吸って小指くらいのサイズにしておいてあげたからですね。そうじゃなかったら短小包茎ちんこになってましたよ」
「や、やめてよ!そんなこと言うなんて湊らしくないよ…!」

 湊は私を冷静に見下ろしながら耳を覆いたくなるような卑猥なことばかり口にする。普段の湊ならこんなことは言わない。
 湊はいつも私を気遣う優しいセックスをしてくれた。前戯がしつこい傾向にはあるけれど、私を辱めるようなことは一度も言わなかった。名前を呼んだり、好きとか、綺麗とか、愛を感じる優しい言葉ばかりくれた。
 それなのに今の湊は、腹部の圧迫感に苦しむ私を平然と眺めている。

「そんなことって?天音先輩がクリトリス責めが大好きな淫乱だって話ですか?」
「なっ!?さ、さっきからおかしいよ!湊って馬鹿なんじゃないの!」

 言われっぱなしが悔しくて子供っぽい反論をした。湊は不愉快そうに眉を顰める。

「今まで散々僕にイカされてたくせにチンコが生えたら僕は用無しなんですね!僕にはおマンコがないからもういらないってはっきり言えばいいよ!」

 そんな意味のわからないキレ方をされても困る。そもそも自分の彼女に男性器を生やしてくれ、なんてお願いした湊が悪いんじゃないか。
 軽い気持ちで言った女の子で童貞卒業という言葉は想像以上に湊に効いたらしい。

「絶対許しませんけどね……!」

 声を荒げた湊は気でもおかしくなったのか自身の服を脱ぎ始める。
 まさか私にナニがぶら下がってる状態でセックスするつもりなのだろうか。彼女に自分と同じ性器が付いてるっていうのによくそんな気起こせるな……。

「今は無理――うぁっ!?」

 突然、性器に刺激が走った。湊が服を全て脱ぎ捨てて細身の体を見せつけながら私の陰茎を握っている。そして、私の反応を見ながら上下にゆっくりと扱き始める。
 尿道口から零れる先走りを陰茎全体に塗りたくるように、根本から亀頭まで満遍なく柔い手のひらを這わす。温かな手に包まれていると更にそこに熱が集中する。

「天音先輩の浮気者!僕だって淫乱な先輩の性欲処理くらい出来るのに……っ、マンコはないけど突っ込む穴ならあるんです!」
「つ、突っ込むって、んっ……誰の……あっ」

 四本の指で亀頭を捏ねくり回され、親指で尿道口をぐりぐりとほじられる。全身に走る強い刺激に、まだ触れられていない膣からも愛液が零れて太ももを伝っていく。
 私の内側は準備万端で、もう湊を受け入れることが出来るだろう。湊のナニも完全に勃起している。なのに悪い予感がする。
 突っ込むって、誰のナニを、誰の穴に……?

「少しだけ待ってくださいね。すぐに準備しますから……っ、んっ」

 湊は私の先走りでべたべたに濡れた手を自分の背中側に回す。背中……というよりお尻の辺りで、眉を顰めながら手を前後に動かしている。
 時折艶っぽい吐息を漏らす姿に不安は一層濃くなる。湊は何の準備をしているの……。

「んっ、あっ、あっ!」

 準備とやらをしている間にも、私の男性器はもう片方の手で激しく扱かれ続けていた。
 段々とむずむずした尿意のようなものがこみ上げてくる。これは射精するということかもしれない。そう思って素直に湊に訴える。

「ねっ……もっ、イク……かも……っ」
「……はっ……天音先輩の初めての濃い精液……ごっくんしてあげたいなぁ。あ……先輩は中で出したいですか?」
「み、みなとぉ……」

 扱く手を止めた湊は、頬を赤く染めてとびっきりの甘い声で囁いた。甘美な声は私の耳を犯すように響いて、湊の言った通りのいやらしい想像が頭の中にふくらんでいく。
 射精をおあずけされている私は抵抗の意志がもうなくなっていた。
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