創作夢

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「ん……痛っ! うっ、気持ち悪い……」

 目が覚めて、すぐにやってくる頭痛からの吐き気。これは完全に二日酔いだ。
 くっついていたしろの体をずらすと下半身から熱がずるりと抜け落ちた。しろのは縮んでいるけど繋がったまま寝ていたらしい。
 ああ、シーツにこぼれるかも。やばいと思って布団を剥ぎ取ったら案の定しろから外れたゴムがシーツの上に転がっていた。

「え……?」

 慌てて拾ったコンドームの先端部分に白濁が溜まっていない。こぼれたのかと一瞬焦って、その焦りはもっと大きなものに変わる。
 コンドームの先端……本来なら精液を受け止めるための場所に穴が空いていたのだ。

「おはようお姉さん。だからお酒は飲みすぎたらだめだって言ったでしょ。ゴム付ける時に俺が"こう"してたこと気付かなかった?」

 白い素肌を晒したしろが、二本の指をチョキンとハサミみたいに閉じてみせる。
 まさか、嘘でしょ……背筋に冷たいものが走る。

「……な、に考えてるの? 妊娠しちゃうよ」
「うん。一週間も一人でするの我慢した濃い精液をお姉さんの子宮にたっぷり注いであげたんだからちゃんと妊娠してね」

 正気とは思えなかった。私の顔を見つめる真っ黒な瞳に飲み込まれていく。
 信じたくないのに股の間からどろりと何か垂れてくる嫌な感覚がする。

「急にどうしてこんなこと……? 避妊しないなんて無責任だよ!」
「……違う。無責任なのはお姉さんだ。年の離れた俺とこの先生きていく覚悟もないのに体を重ねて……都合が悪くなったから今日でお別れ? そんなの許せない」
「っ、だって!」
「俺の父親が接触してきたんだってね。お姉さんが寝てから弟にラインで全部聞いた。俺のこと捨てて自己保身に走ろうとしても無駄だよ。どっちみちお姉さんはクビにされる。あいつはそういう人間なんです」
「そ、そんな……」

 クビにされるかもしれない。赤ちゃんができてしまうかもしれない。
 想像したら不安で目が回る。確かアフターピルっていうのがあるんだっけ……? いや、その前に、少しでも早く掻き出すことが大事だと聞いたことがある。
 体は二日酔いのためか平衡感覚を失っていたからシャワーまでたどり着ける気がしない。この場でいいやと思い、下半身へと伸ばそうとした私の手は素早く制止された。

「あっ」

 そのまま視界がぐるんと動いて、背中がシーツに沈む。

「だーめ。せっかく一晩ずっと蓋しておいたのに掻き出したら」
「やっ、やだ、こんな体勢!」

 私の体は膝裏を押さえられ、無様にひっくり返されている。あそこを見せつけているみたいで恥ずかしい。

「ねぇ、俺の子供を産んで。俺達が一緒にいなくちゃいけない理由を作ろうよ」
「ひ……」

 しろはじたばた暴れる私の両足を顔色一つ変えずに片腕で抱えている。その余裕っぷりと恐ろしい言葉にゾッとする。

「もう……俺のこぼれちゃってるよ」
「っ! あ……っ」

 私のそこにしろの指が触れた。愛液としろの精液が混ざったものが残っている秘部は冷たい。ひっくり返されているせいで濡れたそこも、そこをなぞる指先も見えてしまう。
 膣口から伝う白く濁ったものをしろが指先ですくいとり、ぬかるみに指を沈める。

「やぁぁっ、やめて!」
「こら、お姉さん暴れないの。こっちも触ってあげるからいい子にして」
「ひぁっ、あ、あっ」
「ね、俺の指ぬるぬるで気持ちいいでしょ? つまめそうなくらい濃いのがいっぱい出たんだよ。一発で決まったかな」

 突然の強い刺激なのに潤滑油をまとった親指で陰核を転がされるのには甘い声が出てしまう。親指でグリグリと容赦のない責めをしながら、人差し指と中指は私の中に入ってきて、出ていって、こぼれた精液をすくい取ってからそれをまた私のなかに戻される。

「お願い、やだぁ! んんっ!」
「はぁっ、可愛い。俺ので感じてるお姉さんのおまんこよく見えるよ」

 奥まで入ってきた指が私のなかを擦り上げる。精液がもう出てこないようにとじっくり丁寧に内側へ塗りつける指が、私の弱いところを的確にかすめていく。
 早く掻き出さなきゃいけないのに。うっとりした顔で私を押さえつけるしろの手がそれを許してくれない。

「もっと見てたいけど、ごめん。お姉さんが濡れると俺の精液押し流されちゃうみたいだから蓋しよっか」
「え……?っ、あっ!!」

 折りたたまれた自分の脚に胸を圧迫されて、すぐにしろの自身が押し入ってくる。薄くても確かに存在した隔たりがない。しろの熱を直接内臓で感じる。

「はっ、ナマですんのやば……っ」
「んぁ、あっ、や、やだ、やだ抜いてよぉ!」

 馴染ませるような長いストローク。カリの形、浮き出た血管の形までわかってしまう気がした。私の体は言葉とは裏腹に苦しいほどの心地よさに包まれていた。

 "俺が高校卒業したらすぐ籍を入れようね。お金ならあるから大丈夫だよ"
 "子供って好きなんだ。きっといいパパになるから安心して妊娠してね"
 "俺、天音と子供のために一生懸命働くけど、毎日必ず定時で帰ってくるから"
 "寂しくないよ"

 しろはひどいことをしているはずだ。私達が子供を作るのはきっと正しくない。
 それなのに、嫌だ嫌だと泣きじゃくる私を押さえ込み、犯しながら囁かれる言葉は愛にあふれている。

「ん……イきそ……っ」
「ま、待って駄目、出さないで!」
「昨日俺を受け止めてくれるって言ったじゃん。奥に出すからね、一緒にいこうね……っ」
「っ、いやああ!」

 切なそうに顔を歪めながらしらは私の最奥で果てる。駄目なのに、どくどくと注ぎ込まれる熱を感じながら私の体も達していた。
 本当に妊娠しちゃうかもしれない。飛びそうな意識の中、私の内側で柔らかくなったしろのがすぐにまた質量を持ったのがわかった。

「お姉さん、もう一回だよ」
「ひっ、やっ! しろ、話をしようよ! そういう約束で……っ」
「やだ。こうしないとお姉さんが俺を捨てることわかってる。お姉さんが確実に受精するまで続けるから」
「っ!!」

 気持ち良いのに苦しいセックスだった。私よりしろの方が辛そうだった。
 しろは何度も何度も私のなかに射精した。もうほとんど何も出なくなって、固さを保てなくなってもやめてくれなくて。
 熱くて、頭がぼーっとして、喉が渇いて、唾液の交換をして。日が傾く頃、しろの目から涙がぽろぽろこぼれ落ちた。

「俺、お姉さんと離れたくないんだ。寂しいよ……寂しくて頭がおかしくなりそうなんだ。お姉さんは寂しくないの?」
「……寂しいに決まってるでしょ」
「お姉さん、嫌だよ。俺を捨てないで」
「でも、しろは高校に行かなくちゃ。ずっとこのままではいられないよ」
「何で俺はまだ子供なんだろ……っ」

 二人して泣きながら見つめあい、やっとしろは私を解放してくれた。





 ドロドロの体を私が洗い流した後、しろは今までずっと隠していたことを話し始めた。
 しろのお兄さんはしろと同じく裏垢男子をやっていたそうだ。一年前にお兄さんが家出先で交通事故にあい、亡くなってからしろはお父さんを深く憎むようになったと。

「兄さんはさ、長男だから将来は会社を継げって厳しく言われてた。兄さんはきっと、礼坂一臣の長男じゃない、違う誰かになりたかったんだ……それなのに兄さんが死んであいつがしたことはアカウントの削除だけだ。兄さんのことを恥さらしだと言って葬式にも出なかった。許せるわけないよ」

「しろもお兄さんと同じ理由で始めたの?」
「……わかんない。俺はただ、兄さんの真似がしたかっただけかも。優しくて頭の良い兄さんは俺の憧れだったから」
「しろは生きてね」
「……子供ができたら俺と結婚してくれる?」

 どくり。心臓が大きく跳ねる。しろが私に寄りかかり、全体重を預けてくる。
 私より大きくてがっしりとした体だけど、私の言葉一つで壊れてしまう。まるで心臓を預けられたような重たさを感じた。
 私もしろがいなくなったら寂しい。寂しくて寂しくて死んでしまうかも。
 でも、もしかしたら、精々ツイッターに死にたいとか呟く程度で、元彼がいなくなった時みたいに耐えられるのかもしれない。

「……子供できなかったら結婚してくれないってこと?」
「するに決まってる!」

 間髪入れずに答えたしろにきつくきつく抱きしめられる。しろにはどうせ離してもらえそうもないから、私も年の差だとか気にしないで素直に捕まっておこう。

「あはは……私、会社クビになるかなぁ」

 と、少し苦笑いが出たけれど。

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