創作夢

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「真白がご迷惑をおかけして申し訳ない」
「礼坂社長!?」

 私が応接室のソファーに腰を下ろして早々に礼坂社長が頭を下げる。まさか見ることになるとは思わなかったつむじだ。
 頭を上げてくださいとも言えずおろおろするばかりの私が、礼坂社長の言葉の意味を理解するのには少し時間が必要だった。

「あの、真白って……」
「礼坂真白。僕の息子です。インターネット上ではしろと名乗っているみたいですね」
「っ!」

 しろの実家が裕福だということは知っている。だけど、しろが頑なに話したがらなかった父親の正体、それを今知ることになった――


 応接室の机の上には、私の住むマンションに出入りするしろの姿を映した写真が並べられている。興信所の調査でしろのツイッターのアカウントを特定し、私の家に身を寄せていることを突き止めたらしい。
 証拠を突きつけられているのだからしらばっくれることはできない。しろを最初に泊めた日にちのことから今日まで、一つ一つ事実確認をされ、私は正直に答えていった。

 礼坂社長の話は端的で、一切の無駄がなく進んでいく。辛うじて返答はできているけれど、心臓は破裂寸前だった。
 親の許可なく未成年を家に泊めるのは犯罪だ。自分のしたことがバレて親からの呼び出しを食らったばかりか、泊めた未成年が勤め先の社長の息子だったと聞かされて冷静でいられるはずがない。
 もう手錠をかけられた気分で俯く私に礼坂社長は朗らかな笑顔を浮かべている。テレビのインタビューで見たのと同じ笑顔だ。

「君は真面目な社員だと伺っています。真白は多感な年頃ですからあなたに無理を言ったんでしょう。僕も高校生の頃、年上の女性を魅力的に感じていました。家に帰るよう真白を説得してください。君に言われたら素直に聞くかもしれない」

 はは、と少し懐かしむように笑いながら礼坂社長は話す。でも、そんな穏やかな、少し穏やかすぎる態度に違和感があった。

「……帰さなくちゃ駄目ですか?」

 いや、駄目に決まってる。
 私は気が動転しているのだ。だからついおかしなことを口走っていた。

「それは……真白を帰す気がない、ということでしょうか?」
「ちっ、違います。私も真白くんは早く家に帰り、高校に行くべきだと思っています! で、でも。どうして今まで警察に通報もしないで放っておいたんですか? 真白くんのことが心配じゃなかったんですか?」

 慌てていて一息でまくしたてる。しろが家出したのは六月のことだ。普通は家族がいなくなったら不安で眠れずご飯も喉を通らない、辛い日々を過ごすことになるだろう。
 なのに、家出中の息子を放置しながら家族のことを宝物だと語っていた、テレビでのインタビューが途端に嘘くさく思えた。

「……君のために一つ忠告させてもらいます」
「っ!」

 礼坂社長は人の良い笑顔を崩さないが、その一言で空気はガラリと変わった。





 退勤後の日課である迷子のしろ探しには行かず、もう二度と飲むまいと誓っていたお酒を買い込んで帰った。
 久しぶりに飲みたい……そんな生ぬるいものではなく飲んで飲んでとにかく酔い潰れたい気分だった。
 遅れて帰宅してきたしろは私が缶ビールをぐいぐいあおる姿に目を丸くしている。

「はーっ、まじであり得ない。社割使っても冷蔵庫の出費痛いし、家賃も高い。しろはどこにいるの! 帰ってきてよー……」
「うわ、お姉さんもう酔ってるじゃん! お酒弱いんだからハイペースで飲んだら駄目だよ。悪酔いするって」

 最後に飲んだのはしろと初めて会った日だ。あの日のしろは「はい、飲んで飲んでー、嫌なこと全部吐き出しちゃおう」とぐいぐい飲ませてきたが、今は私の手から缶ビールを没収し、心配そうに背中を撫でてくれている。
 それでも私は取り上げられたお酒に手を伸ばす。

「かーえーしーてー! 今夜は飲むの」
「駄目です。二日酔いになって後悔するよ?」
「明日はお仕事休みだからいいの!」

 しろが更に私から遠ざけるようにお酒を後ろ手に隠す。確かにもう酔っ払っているらしい。私の体はふらついていた。
 しろの体に半ば抱きつきながら背中に隠されたお酒を取り返そうとするが、しろが左右の手に持ち替えてかわしてくる。

「私、私、お酒飲みたいの……」
「……会社で何かあった?」
「……っ」

 私って泣き上戸かもしれない。気付けばしろに縋りついて泣いている。

 ……あったんだよ、しろ。
 礼坂社長から最後に念を押された。「明日の夜までに真白を家に帰さなかったらそれなりの対応を取らせてもらう」と。
 それなりの対応ってなんだろう。警察行き? 仕事をクビになる? 両方とも?

 私には礼坂社長が、息子を純粋に心配している父親のようには見えなかった。だからしろを帰すのが嫌だと思ってしまった。
 だけど、私の部屋にしろがいることはもう知られてしまっているのだ。一度しろを家に帰す必要はあるのだろう。

「うう……しろー、いなくなったらやだよぉ。寂しいよ……っ」
「あはは。お姉さんどうしたの。俺がいなくなるわけないでしょ? それともさ……やっぱり俺だけじゃ駄目? "しろ"がいないと寂しいの?」
「うっうっ」

 "しろ"がいなくなっちゃったから寂しい。
 そして、明日にはしろもいなくなっちゃうからもっと寂しい。

 礼坂社長はこうも忠告してきた。しろは私がアヤサカデンキの社員だと知って近付いたのだと。父である礼坂社長を憎んでいるから私を利用しようとしている。しろの気持ちを信用しない方が良いと。
 ああ、帰ったらしろに聞こうと思っていたのにお酒に逃げるなんて意気地なし。

「お姉さんは世話が焼けるんだから。ほら、鼻チーンってして」
「うう……っ」

 ティッシュを当てられ、私は素直に鼻を噛んだ。七歳も年下の男の子の前で情けない。これではどちらが年上かわからないな。
 だけど「上手にできてえらいえらい」と優しく頭を撫でられたら嬉しく感じてしまう。

「今日は寝ようか。明日お姉さんに話したいことがあるんだ……」
「うん……私も話がある。大事な話……しろに聞きたいことがいっぱいあるの。いっぱい話そう。何も知らないままお別れは嫌だ……」
「え?」

 酔いも回り、泣き疲れた。半分意識が飛んでいる状態で、私はしろの背中に手を回す。
 きっかけがどうであれ、今のしろの気持ちまで疑う気にはなれない。しろからも話があるようだし、明日起きたら今日あったことを話して、しろにもきちんと話を聞こう。 

「……お姉さん、抱いてもいい?」
「ん……いいよ」

 きっと、しろと過ごす最後の夜になってしまうだろうから。


「天音、天音、好き。大好き……っ」
「ん……っあ、真白……!」

 前戯でどろどろに溶かされ、私の深いところまでしろのが入っている。子宮はすっかり降りてしまっていた。これ以上はもう進めないのに、もっと奥へ奥へと貪欲なしろの先端が私を突き上げる。
 ここ最近は私が落ち込んでいたこともあり、しろも求めてこなかった。久しぶりの快感に頭まで支配されている。

「ひゃ……っ、あ、んぁっ! しろ、わたしまた……っ」
「お姉さん好きなんだ。離れたくない! 俺もイくから、お願い。全部受け止めて……っ」
「しろ……あ……っ!!」

 切なく縋るような声と共にしろは私の両脚を抱え、本能のままに膣の一番深くに吐精した。ゴム越しでもしろのがびくびく震えているのがわかる。
 たっぷりと時間をかけた長い、長い射精。私もしろと同時に達したからなのか、酔っているからか、体の内側に温かいものがじわーっと広がっていくのを感じる。

「お姉さんは俺のものだよ」
「ん……」

 欲を吐き出し終えたしろのは少し固さを失ったけれど、しろは挿入したままの状態で私が苦しくないよう覆いかぶってきた。
 あそこがいつもより熱い。しろで体中を満たされているような感覚に包まれながら私は睡魔に従い目を閉じた。

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