創作夢

□歩夢
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無垢な笑顔。溢れんばかりの元気。薄い胸板と狭い肩幅。ツルツルすべすべな細い手足。
ああ、ショタって素晴らしい――


「旗のお姉ちゃん、おばさん、こんにちはぁ!」
「ただいまー!」
「みんなおかえり!」
「おかえりなさい。寄り道しないで帰るのよ」
「「はーい!」」

私は近所の小学校の下校時間に、交通誘導員のボランティアをしている。
今日もPTAの葉山さんと二人で横断歩道に立って、低学年グループを見送った。
幼い彼等は毎日底抜けに元気だ。きっと学校でたくさん楽しいことがあるんだろうな。
黒青水色赤ピンクオレンジ、カラフルでデザインも様々なランドセルを背負った小さな背中を見つめ、この幸福感を噛み締める。

通りすがりの小学生に挨拶しただけで不審者扱いされるこのご時世で、誰にも怪しまれることなくショタと交流出来るのだから、交通誘導員って本当においしい。
近所のスーパーでばったり会うと「あっ、旗のお姉さんだ!」などと言って寄って来てくれるショタの可愛いこと可愛いこと。
こんなにも役得な立場なら、この地域に巣食うショタコンやロリコンがこぞって立候補しそうなものだが、交通誘導員は常に人手不足だった。

「天音ちゃん、いつも悪いわね。大学の方は大丈夫なの?」
「はい!毎日というわけにはいきませんが、私も地域社会の一員として、少しでも地域に貢献出来ればと思いまして!」

もっともらしいことを言ってみせると、葉山さんは「立派だわ」と関心したように頷いた。
まさか私が重度のショタコンだとは夢にも思うまい。

「あら、そろそろ幼稚園に下の子を迎えに行く時間だわ……」
「私が残って五、六年の交通誘導もしますよ。迎えに行ってあげてください」
「ありがとう。天音ちゃんって優しい子ね。お願いするわ」

よしよし、これでショタと一人で戯れられるぞ。なんて内心下衆なことを考えながら笑顔で奥様を見送った。

でも、ご安心ください。お宅の六年生のご長男と五年生のご次男、女子児童も含めて私が責任持って交通誘導します。
ショタコンゆえに交通誘導員を始めたのは確かだが、幼さから交通ルールを破ることもある子供達の安全を守りたい、という至極真っ当な思いを持っているのもまた確かだ。
ショタを守るどころか傷付け、法律を犯すような悪しきショタコンは、善良なショタコンの私にとって敵でしかない。三次元のショタはあくまで鑑賞用。これ、絶対。




 道路の片隅で、きゅんきゅん☆パラダイスをプレイすること一時間。
この乙女ゲームの攻略対象の中で唯一のショタキャラ、歩巳(あゆみ)くんルートは順調に進み、初々しいキスシーンにたどり着いた。
純真無垢で天使みたいな男の子だと思っていたら本当に正体が天使だったとは、さすが歩巳くんだ。期待を裏切らない。
ただ、もう少し大人になったら付き合おうエンドなんて物足りない。そう、鞄の中に入りっぱなしになっている十八禁のショタ凌辱ゲーのように、歩巳くんを……

「ぶち犯したい……」
「もーらいっ!」
「えっ!?」

私が煩悩を垂れ流した瞬間、背後から伸びた手にゲーム機を奪われた。
慌てて振り返ると、先程の奥様のご長男の葉山学(がく)くんの姿があった。いつの間にか五、六年生の下校時間になっていたようだ。

学くんは八重歯を見せて笑いながらゲーム機を高々と掲げ「ゲーム捕ったどー!」とおどけてみせる。
掲げられたゲーム機には歩巳くんとのキスシーンのスチルが映し出されたままのはずだ。
私をからかうのに夢中な学くんはまだ画面を見ていないようだが、このまま好きにさせておいたらショタコン疑惑をかけられるのも時間の問題だ。
私は少し強めの口調で言った。

「人の物を盗ったら駄目でしょ!返しなさい!」
「やだよーっだ!パーース!」
「あああっ!」

すると学くんは後ろから歩いてきた児童に向けて、ゲームを放り投げる。買ってからまだそんなに経ってないゲーム機が緩やかなカーブを描きながら無慈悲に飛んでいく。
私にはもうどうすることも出来ないゲーム機の行く末を目で追うと、パスの相手の男の子が受け止めてくれた。

「び、びっくりしたぁ……」

突然飛んできたゲーム機に困惑しているそこの君は、歩夢(あゆむ)くんではないですか!
歩巳くんと名前が一字違いの歩夢くんは、小学六年生にして既に顔が完成している正統派美少年で、性格は子供らしく素直で純真無垢。
そのうえ成績優秀でとても礼儀正しく、学級委員も務めているお利口さんだ。
歩巳くんがゲームの中から飛び出したみたいな存在、端的に言えば天使なのである。

「おーい、歩夢ー!もっかい俺にパスしろっ」
「歩夢くん、それ私のだから!」

頭上でパンパン手を叩き、余計なことを言う学くんに負けじと私もアピールした。
歩夢くんは私と学くんの顔を交互に見た後、私の方に小走りで駆け寄って来る。
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