創作夢

□05
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――10月31日、ハロウィン。元々は秋の収穫をお祝いし、悪霊を追い出すことを目的としたヨーロッパ発祥の行事だったというが、昨今の日本……いや、昨今の我が家では、ハロウィンにかこつけて変態が変態を助長させる傍迷惑な日と化していた。

「トリックオアトリート!経血をくれないとイタズラしちゃうよ!」

 ハロウィンらしく今晩はカボチャを使った料理にしようと台所に立っていたら、制服のシャツに赤い折り紙を蝶ネクタイに見立てて付けていて、その上に黒いカーテンを羽織っただけという何ともクオリティの低い仮装姿の弟がハロウィン定番の台詞を言った。
 純真無垢な子供のような笑顔を浮かべているのにその要求といったらまあ酷い。

「それを言うなら"お菓子をくれないと"でしょ。ほれ、持ってけ変態!」
「わっ……と。姉ちゃんこそ言葉の意味わかってないだろ。トリックオアトリートの"トリート"は"おもてなし"って意味だよ」
「えっ、そうなの?」

 弟は私が投げつけたポテチの袋をキャッチして、やれやれというように肩をすくめた。

「そっ!だから、吸血鬼に仮装した俺に生理中の姉ちゃんがするべきおもてなし……そーれーはー?」
「心臓に杭を打ち込む?」
「怖っ!」

 弟への日頃の恨み辛みも一緒に乗せて全体重を掛け、切れ味のいい包丁で硬いカボチャを真っ二つにしたら弟が顔を青くする。少ししおらしくなった弟の隣で私は手を動かすことにした。カボチャの種を取り除いて皮を剥き、ざくざくと小気味良い音を立てながら一口大に切っていく。

「姉ちゃん、トリックオアトリートに答えてよ……ハロウィンなのに冷たいよー…」
「だからポテチあげたじゃん。いらないなら返してよ」
「……はいはい。わかったよ。姉ちゃんの気持ちはよーーくわかりました。要はあれだよね。料理中にエッチなイタズラしてほしいんでしょ?」
「なっ!?ったぁ!」

 突然お尻を鷲掴みされて全身を駆け巡る嫌悪感。なにしてくれてるんだ変態め…と怒りで手元が狂って、カボチャを押さえていた人差し指に鋭い痛みが走った。包丁を置いて確認すると、指先に出来た数ミリの小さな傷から血が滲んでいた。

「姉ちゃん、大丈夫!?俺のせいでごめん。ごめんね……」

 料理をしていればこのくらいよくあることだし、大した傷でもない。が、表では申し訳なさそうに謝罪しつつ最後に名残惜しそうにお尻を揉んでいった弟よ。お前の態度が気に食わない。

「愚弟、舐めて綺麗にしろ」
「え…?」

 私の中の何かがぷっつん切れて、弟の前髪を掴むと唇に左手の人差し指を押し付ける。嫌がると思った。だって弟は経血にのみ並々ならぬ情熱を燃やしているだけで血液マニアというわけではないようだし、普段なびかない私から逆に舐めろと強制されたら妙な憧れも消えてなくなるんじゃないかと。そう思ったのだけど、「いいの!?」と嬉々として聞いてきた弟にその考えは間違いだったと気付かされる。

「じゃあお言葉に甘えて……」
「ひっ!」

 弟が瞳を輝かせながら人差し指の根元までぱくりと口にくわえた。すぐに舌が絡まりついてきて指先を特に丁寧に舐め回す。こいつ本当に舐めてる……いや、舐めろと言ったのは私なのだが実際にされたら引いてしまうのは何故だろう。

「んぅ……ねーひゃん……」

 私の機嫌を窺うようにチラチラとこちらを見つめる視線が腹立たしく感じて指を更に喉奥まで突っ込んでやると弟は「うぇ」と軽くえづいた。目に涙を浮かべながらもその表情はとても嬉しそうで、顔を激しく前後させ、じゅぽじゅぽと下品な音を立てて指をしゃぶってくる。何か性的なものを思い起こさせて顔が急激に熱くなる。こんなはずじゃなかった私は慌てて指を引き抜いた。

「はぁ、はぁ……もういいの?俺もっと舐めるのに……」
「い、いいです!もう血止まったから!」
「はぁ……姉ちゃん、信じられる?これから姉ちゃんの血が、俺の血となり肉となるんだよ。経血もこんな味がするのかな?姉ちゃんの経血をより一層飲んでみたくなったよ……」

 全くどうしてこうなってしまうのか。自らのお腹を愛おしげに撫でる弟を見ながら、私のしたことは完全に逆効果だったと痛感する。今日も弟の愛は変態的でとても重い。
 弟はぼーっとしたまましばらく佇み続けていて、私も弟の唾液で濡れた指をどうすればいいかわからず、唾液が乾くまでその場から動けなかった。

END

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