創作夢

□W.C.攻防戦
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凛と付き合い始めてから二ヶ月。
未だに私は、凛に本当の性別を打ち明けられずにいる。

……そして、勝手に私の性別を勘違いしている人が約一名。


「私ってツイてないなー…」
「うわあ……脈絡なく下ネタ言っちゃうんだ……まあ、立派かはともかく、天音くんにもちゃんと付いてるから安心して」
「ド、ドン引きするのやめて!骨折の話だよ!」

私はギプスをした右腕を世良くんの眼前に突き出し、ワナワナと震えた。
全く世良くんはもう。友達なら、不幸にも手首を骨折してしまって落ち込み中の私を励ましてくれないだろうか。
"立派かはともかく"って、まるで私のが小さいみたいな言い草は心外だな。
……無論、付いてないけれど。

なんだか最近の世良くんは刺々しい言動が目立つ。
今だって、学校帰りに服を買いに行くと話したら、世良くん自ら荷物持ちを買って出たのに、だ。
手が痛いだの足が疲れただの僕は映画が見たいだの文句ばかり言うから、明日の凛とのデートの服を選べないまま、映画を見ることになってしまった。


「天罰が下ったんだよ。ふしだらな行為をしようとしたから」
「なっ!?」
「あ、トイレあったよ。行きたいんだよね?早く行こ」

私が探していたトイレの案内表示を見付けて、世良くんはさっさと一人で歩いて行く。
ふしだらな行為なんてしようとしていない。
ただ、明日こそは凛との初キスをするんだ!と決意していた遊園地デートの前日に、転んで骨折しただけで。
結局、遊園地デートは行けなくて、キスも遠退いてしまった。
我ながら本当にツイてない。下ネタではなく。

今回の件で確信した。
世良くんは間違いなく凛のことが好きだ。
だから私が凛にキスしようと企んでいたことを、ついポロリと話してしまってからというもの、世良くんは少し怒ってる。

「世良くん、待ってよ!」

トイレの前に、"世良くんに凛は渡さない!"とガツンと言ってやろう。
私は慌てて世良くんの後を追い掛けた。




「どどど、どういうつもり!?何で男子トイレ!?」

私の絶叫が、世良くんと二人きりの男子トイレ内にこだまする。
私は女子トイレに向かっていたはずなのに、あれよあれよという間に男子トイレに引きずり込まれていた。

「もう、うるさいなぁ。天音くん、利き手が使えなくて不自由してるから、僕が代わりに手を添えてあげようと思ってね」
「て、手をって……」

世良くんは迷惑そうに耳を塞ぎながら、軽いノリで言った。
一体何に手を添えるっていうんだ。私にはそんな親切が必要なものは付いてないよ。


「とにかく私は女子トイレに移動するからね!」
「だ、駄目だよ…!いくら顔が女の子みたいに可愛いからって、天音くんの心と体は男の子でしょ。女子トイレに入ることに罪悪感はないの?
……違うよね。君はそんな悪い子じゃないはずだ!」
「ざ、罪悪感も何も、私は女なんですけど……」

世良くんは、今まさに悪の道に堕ちそうな友人を全身全霊で説得している……かのような演技を見せた。

「まあ、僕も男だからね。女子トイレに入りたいっていう君の気持ちをわからないでもないけど……今は堪えて。
僕が手伝ってあげる。ほら、下着を下ろそうね」
「ひぃぃぃっ!来ないでぇ!!」

世良くんの爽やかな笑顔が、私には邪悪な悪魔の微笑みに見える。
ジリジリ距離を詰めてくる世良くんから逃げようと、私は咄嗟に後ずさりした。
でも、男性用の便器はすぐ真後ろ。逃げ場なし。


「何を恥ずかしがってるの。そんな態度男らしくないよ。凛さんにふしだらにもキスしようとしてたくせに」
「ま、待って!話し合おう!」
「つべこべ言わずに、香坂さんが男らしく立ちションするところ見せてよ!」

……あ、これ完全に嫌がらせだ。
私の立派じゃないものを見て鼻で笑う気だな。
私が考えていた以上に世良くんはお怒りらしい。思わず昔の呼び方に戻ってしまうくらいに。

こんな状況では尿意も引っ込む。
遠慮なくスカートを捲ろうとする手を、左手でなんとか押さえて抵抗を続けた。
そもそも私には生えてない。立ちションなんて無理な話だ!


「やっべー」

両者一歩も譲らない戦いの最中、トイレに向かう通路から男の人の声が聞こえた。

「やっぱちんこ痒いわ」
「抜き過ぎだろ」
「あー…昨日四回した」

なんだかすごい会話だけど、おかげで世良くんの動きが止まる。
そしてあからさまな舌打ちをしながら私から手を離した。

でも、この声どこかで聞いたことがあったような……
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