Keep a secret
□もしもばなし
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〜もしも時谷くんがATMに行ったら〜
近所のスーパーの外にあるATMに来たら五人も待っていた。夕方の混雑時に来てしまったことを後悔しながら最後尾に並んだ。
赤ちゃんを抱いた主婦の次は作業服を着た男性、その次に杖をついたおばあさん、更にその次に若いカップルが二人でATMの中に入っていった。
やっと次は俺の番になる。
「俺の暗証番号知りたい?」「えー知りたい知りたい」「当ててみて」「んーこれ?」「ぶぶーヒントはぁー」
前の二人の馬鹿でかい話し声が聞こえてくると、俺の後ろに並んでいるこわもての男性が貧乏ゆすりを始めた。
バカップルもバカップルだけど、後ろの男も威圧的で嫌だな……。
普通より三倍くらいの時間をかけてバカップルが出てくると、俺は素早くATMに入った。財布からあらかじめ出しておいたキャッシュカードを入れる。
えーと、お引き出しお引き出し。並んでる人がたくさんいるんだから早く済まそう。暗証番号は……
「あ…っ」
焦り過ぎて暗証番号を打ち間違えたらしく、最初からやり直しになってしまった。改めて落ち着いて暗証番号を打ち込むと、今週の生活費としてとりあえず一万を引き出した。
早く出よう。きっと後ろの男がイライラしてる。
一万円を財布に入れている間に、キャッシュカードを取れとせっかちな警告音が鳴る。俺はキャッシュカードを取って、慌ててATMを後にした。
なんだか酷く疲れた。スーパーのベンチでぐったりしていると、大好きな声が俺の名前を呼んだ。
「時谷くん!時谷くんもお買い物?」
俺の顔を覗きこんだ綾瀬さんの明るい笑顔に、さっきまでの疲れは一瞬で吹き飛んでしまった。
2016.06.23