恋愛小説ワールド

□一つのリンゴ
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静かだ…

ここ数日…

知ってるヤツや、知らないヤツがたくさん来てたってのに…

明日は出棺だ…

あたしの目の前には…

お父さんとお母さんだったものが…

長細い、窮屈そうな箱に入っている…

あたしは…

箱に付いている、小さな窓を開けた…

 

そこには…

見慣れた顔があった…

確か…

これがお父さん…

こっちがお母さん…

楽しい思い出は…

ほとんどない…

しかし…

 

不思議と悲しくない…

なんだろ?

どっちかと言うと…

何だか、束縛から解放されたような…

 

がんっ

 

あたしは…

お父さんだったモノが入っている箱を蹴った…

 

 

寒い…

四月って春だろ…?

何でこんなに寒い…

 

体だけ…?

 

あたしの心は…?

今、あたしは…

何考えてる?

 

寒い…

 

あたしはうとうとして…

パサッ…

ふいに、あたしの体に何かがかぶさった…

 

「こんなところで寝てると、風邪ひくぞ?」

裕也…

裕也が、あたしに毛布を掛けたらしい。

「サッシも玄関も開けっ放しだったぞ。
不用心だな…」

そう言って、裕也はあたしの頭を撫でる。

あたしは、露骨に嫌がる素振りで、裕也の手を振り払い…

「そうだね…
あんたみたいな物騒なのがいるからね…」

あたしがそう言うと、裕也は苦笑する。

そして、サッシを閉め、鍵を掛け始めた。

 

「まあいいけどさ。
俺は帰るけど、玄関の鍵、ちゃんと閉めろよ?」

そして…

あたしは…

また一人になった…
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