祭の間

□虹が生まれた日
1ページ/2ページ



久しぶりに乗る電車はどこか新鮮で。


流れる景色を目で追えば、季節がいつの間にか変わったのだと気付く。


この時間は混雑とは無縁で、座席にも空白が目立っていた。


何気なく取り出した携帯を開くと、ちょうど受信中の画面が出ていて。

その送り主が今から会う相手だと思えば、そんな所に小さな運命を感じたりするもの。


【ごめんね、少しだけ遅れる!】
絵文字も何もない質素なメールだけど、彼女の慌てた様子を想像してサンジは笑いを噛み殺した。

大方、電車に乗り遅れたか乗り間違えたかだろう。
パタンと携帯を閉じ、辺りをゆっくりと見渡した。


舟を漕ぐとはまさに、そう思える老婆の昼寝。
ベビーカーをゆらゆらと揺らす、疲れた感じの母親。

目を反らしたサンジの視界に飛び込んだ一瞬の青は、すぐにトンネルに遮られたけれど。

駅に着いて取り敢えず喫煙できる場所を探しに歩き出した途端、今度は着信を知らせるバイブが鳴った。



「もしもし?今着いたけど、どのへんにいるんだい?」

サンジは優しい声で彼女に語り、それに対しての彼女の返事はとても大きな声で。


「い、いいから駅から出てきて!!」

遅れると言っていたのに、先に到着しているのか。
サンジは小首を傾げ、それでも言われたままの出口に向かった。


もしかして、何かあった?
沸々と湧いた不安に、少しづつ足は速まっていく。



地上に出れば、思いの外強い陽射しに眉を寄せた。




「サンジくん!!早く早くっ!!」
出口で足踏みをしていた彼女に腕を引かれ、明るさに慣れないまま走る。


行った先には人混みと、そしてどよめきとシャッター音が溢れていた。



「写真撮ろうと思って頑張ってみたけど…やっぱり直接見る方が感動すると思って!!」




目の前で起きている事が、まるで彼女の魔法の様で。
得意気に笑う愛しい人は、鼻の頭に少し汗を浮かべて。



「へぇ…すげぇな…」




それは天使が時間を止めたのかと思う程。

大きな交差点なのにも関わらず、車が途切れた瞬間。




大きな交差点の真ん中から虹が生えていた。
まさしく、生えていたのだ。




「初めて見た!!虹の端っこ!!」
興奮する彼女の肩をそっと引き寄せる。

忘れ得ぬ光景を、こうして一緒に見られた奇跡。



「サンジくんの誕生日に神様からのプレゼントかな!?」
嬉しそうに見上げる彼女の額に唇を寄せて。


「君がここにいる事が、だろ?」




春と言うには少し早いけど。
日溜まりはどこか春の匂い。






fin




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ