短編集V

□スイカ薫る春の日
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それは小春日和のある日だった。






**スイカ薫る春の日**






小十郎は仕事と政宗の世話が忙しくナツオの病院へ暫らく訪れていなかった。

少し懐かしい病院の入り口を通って病室へ向かう。

そしてドアをノックして開けた。

するとそこには…。






「あ、小十郎さん来たから私帰るね」

「小十郎…?」






ナツオが友達と楽しそうにお喋りタイムだった。

だが、小十郎の顔を見ると気を使って出ていってしまった。

「久しぶりだな」

「そーですねー」

小十郎はピクリと眉を動かした。

前にも見た事がある。

こういう時のナツオは…。






(何か拗ねてやがる…;)






まぁ無理もないだろう。

病院に入院しきりの恋人に仕事とはいえ二週間は軽く会いに来ていないのだから。

「…悪かったな」

「何がですかー」






(…;)






小十郎は少し黙り込む。

それからナツオを見ずにまた口を開く。

「見舞いに…来れなくて「だから?」

ナツオはムスッとした顔のまま半ば睨み付ける様に小十郎を見た。

「だから悪かったっつってんだろ;」

「謝るのにその言い方?」

まだ許すつもりのない様な顔のナツオ。

小十郎は困り果てた。






「…スイカ」






急にポツリと呟かれた単語。

小十郎はは?と返す。

「…スイカ…持ってきたら許す」

「スイカってお前…まだ時期じゃねぇだろうが;」

「やだ。スイカ」

小十郎はハァッとため息。

それからナツオを見た。

「それで機嫌治すんだな?」

「治す」

「絶対ェだな?」

「絶対」

小十郎は一呼吸間を置くとゆっくりと椅子から立ち上がった。






「待ってろ」






ナツオはニコッと笑うと小十郎を見上げた。

そして小十郎はスイカを探して回ることになったのだった。

勿論置いてある店などごく僅かだというのに…。

その頃のナツオはというと…。






「やっぱメロンが良いなぁV」






などと考えていた。









Fin




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